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― 【二人】 ―

2023/09/04
文字数:777文字

「思い出したんだね」
 頬には涙。
 どうしようもない痛み。
 息が荒く、鼓動が波打っている。
「どうして・・・」
 私は痛みを抑えて叫んだ。
「どうして、思い出させたの!!」
 そこは白い世界。
 ただ、ひらひらと羽が舞う。
 この羽は忘れろといっていたんじゃない。
 思い出せと言っていたんだ。
 そして、木の上に天使だけがいる。
「あなたが決めたことだよ」
「私が?」
 私は天使のいる木の上を見上げる。
「私は思い出したくなんかなかった!」
「でも、そのままじゃ進めない」
 天使の声のトーンが変わった。
 さっきまで優しく語り掛けるような声だった。
 それが、感情のない機械的なトーン。
「だから、思い出して。痛みを強さに変える為に」
 これ、私の声。
 違う、私の声と重なって聞こえる。
「あなた、誰?」
 そうだ、羽が在るから天使だって思ってたけど顔は見えない。
 天使はフワリと木から舞い降りてくる。
 その顔は・・・。
「もう一人の私。やっと気づいてくれたのね」
 私!
 何も言えずにただ呆然とする私に天使は言う。
「ここは死と生の世界の狭間」
 天使はそっと私の頬に触れる。
「だから、死にたい私と生きたい私がここにいるの」
 にっこりと微笑むその顔は確かに私と同じ。
「あなたは死にたかった。何もかも忘れて・・・。でも、私は生きたかった。全てを思い出して」
 私は死にたかった?
 違う。そうじゃない。
「私は、許せなかったのよ。私の存在が」
 天使は少し悲しげな顔をする。
「ええ。でも、もういいでしょ?大丈夫。私がいるから」
 そして、ぎゅっと私を抱きしめた。
「大丈夫。もう、泣いていいの。いつか笑える日のために、私の存在を認めてあげて」
 私、きっと誰かにそう言って欲しかった。
 たとえそれが私でも。
「そうね。もう、いいわよね」
 そう言って、私も天使を抱きしめた。
 多分、もう泣ける。
 ほら、頬が熱いもの。