《その後編》
【覚醒】
あれれ。私が手首を切ったのは雪の降ってた時期だから・・・。
もしかして、だいぶん時間が経ってる!?
家に帰ったら行方不明ってことになってる?
ひ~。早く帰らなきゃ。
と慌ててその場から離れた。
家へと走っていくが、途中でどう説明しようかとも思った。
まあ、気にせずにとりあえず帰らなきゃ。
「ただいま~」
私はとりあえず家にたどり着いた。
「おかえり」
奥から聞こえた声は冷静そのもの。
「?」
私は声の聞こえた部屋に行く。
「どうしたの」
母親がそう聞いてきた。
「えーと、別に変わったことってない?」
「特にないわよ」
語尾に?がついてるように思える。
確かに変な質問だ。いつもはこんなこと聞かないし。
「今、4月だよね」
確認してみる。
「そうだけど・・・」
「私、3月って何してたっけ?」
「相変わらず、家でごろごろしてたじゃないの」
?
「そうだった?」
これ以上聞くと気がおかしくなったと思われそうだ。
私自身おかしいんじゃないかと思い始めた。
行方不明になってないことは分かったんだが・・・。
【店主】
しばらくして、またあの店を見つけた。
私はいつも持ち歩いていたあのナイフを返そうと思った。
カランカラン。
「おや、またいらしゃって下さったんですか」
どうやら、店主は私の顔を覚えていたらしい。
「どうです?不思議な体験ができましたか?」
何を買ったかまで覚えているのか・・・。
「ええ、まあ」
「それで、そのナイフはもういらないのですか?」
そう言って、私のバッグを指差す。
透視でもできるのか?
なぜ、バッグにナイフが入っているのか分かったのかは分からないが
そう言ってくれるなら話は早い。
「もう、私には必要ないですから」
「そうですか」
そう言って、レジからお金を出す。
「あ、お金は別にいいです。私が勝手に返しに来たのですから」
「それじゃ、このお店の品物を一つ持っていきますか?」
ぐるっと店を見回す。
別に欲しい物は見当たらない。
「だったら、お金でいいですね」
レジから出したお金を私に渡す。
人の心も読めるのか?
「なんで・・・」
「分かりますよ。長く生きていればね」
そう言ってウィンクしてみせる。
「長くって、そんな年にも見えませんけど?」
「若作りなだけですよ」
いくつなんだろ?
「いくつなんですか?」
あ、言っちゃた・・・。
「秘密です」
そう言って、唇に人差し指を当てる。
意外とお茶目な人だ・・・。
「それと、あのナイフは買われてはいつも戻ってくるのですよ」
そー言うことは早く言って欲しい。
そして、私は店を出た。
あれから、あの店は見つからない・・・。
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