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― ロストメモリー<失われた私>3 ―

2023/09/05
文字数:1171文字

  夢現


 次の日、私は森の中にいた。
 リィーグルが私を見つけた場所。
 それは、リィーグルの家からさほど離れた場所ではなかった。
「ちょうど散歩をしてるときに見つけたんだ」
 そう言いながら、リィーグルは木の根元を指さす。
「そこに、白いシーツ一枚にくるまって眠るようにディメルがいた」
 たぶん、私はここにいた時意識があった。
 眠るようにって言うけど、実際目を開けるのがだるくて眠ったのだと思う。
「何か思い出さないか?」
「・・・・・・」
 私はリィーグルの問いに答えることができなかった。
 何も思い出すことができないのだ。
 どんなに記憶を探っても、私にはその先が見えない。
 私はゆっくりと首を振る。
「そうか」
 リィーグルはポンと私の頭を叩いた。
「まっ、焦ったって思い出せないものはしょうがないよな」
「そうですね・・・」
 私は力無く頷く。
「そう、落ち込むなよ。そのうち思い出すさ」
 そして、ポンッと頭を撫でてくれる。
 わたし・・。
 この手を知ってる気がする。
 いつもこうしてくれた気がする。
 この人は私を知らないのに?
 どうして・・・
「・・・。おい。聞いてるか?」
 !?
「え。あ、何でしょうか?」
 ボーとしてて、全然聞いてなかった。
「だから、街に買い出しに行くけど一緒に来るかってきいてんだよ」
「あ。はい。行きます」
 悩んでたって、分からないものは仕方ないよね。
 思い出すのはゆっくりで、良いんだから。

 うわ~。
 すごい・・・人がたくさん!!
 こんなにたくさんの人初めて。
 広い街道。大きな建物。
 私はきょろきょろと周りを見回していた。
「さてと、迷子になるなよ。ディメル」
 リィーグルがふざけた調子で言う。
「私、そんなに子供じゃありません」
 ムッとしてぷいっとそっぽを向く。
「ごめん。ちょっとからかっただけだよ」
 ・・・。
 私・・。いくつ?年・・・。
 私の年はいくつなの?子供じゃない?
 大人?
 違う・・・大人でもない。
 私。いつから生きていた?
 生きていた・・・?
「ところでさ、その。敬語は止めないか?」
 急に無言になった私にリィーグルが語りかけてきた。
「えっ、私、敬語になってますか・・・って。あれ?」
 敬語になってる・・・
 こんな言葉遣いしか知らない。
「もっと普通に話せないのか?」
「あ。はい・・・。そうします・・。じゃなくて、そうする」
 普通に話せる?
 普通に話してた?
 誰と?何処で?何時?
 ・・・。考えても仕方ないって分かってるのに・・・
 街の雰囲気とは逆に気持ちが沈むのを止められない。
 街は賑やか・・・。私は独り。
 一人っきりだ。誰も、私を知らない。
 私すらも―――
 なんとなく覚えているのは 耳の奥で鳴る機械音。
 あれは何?
《何もかも忘れなさい》
 忘れる?なぜ?私はダレ?
《忘れてしまいなさい》
 そして・・・、悲しく響く声。
 ただ、それだけが私の記憶。




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