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― ドールメモリー<飛び立つ私>2 ―

2023/09/07
文字数:1158文字

  逃亡


「おい、起きろ!!ディメル!!」
 目の前にいたのはリィーグル。
 なんで?
「ボーっとするな、逃げるぞ」
 グイッと引かれた手は温かかった。
「ど、どうしてですか?」
 私は立ち止まる。リィーグルが助けるのは私じゃない。
「んな事言ってないで、来い!!」
 私の言葉に答えず、リィーグルは手を引いた。
 部屋から出て、館の中を人に見つからないように歩く。
 一階まで来て窓から外へ出た。そのまま、裏門まで走る。

「やっぱ、人がいるか……」
 リィーグルは舌打ちして、門を見据える。
 そこは無人ではなく、ガードが2人いた。
「ディメル、塀を乗り越えられるか?」
 突然振り返り、私に聞いた。
「え、あの、ちょっと、高い気がします」
 私は2、3メートルはある塀を見上げて答えた。
「だよな。俺でさえやっとだった」
「登って来たのですか!?」
「それ以外、道は無いだろ。と、やばっ」
 話をしてる私たちに気づいたのか、ガードの一人が近づいてきた。

「あなた達、ちょっと実験室に来て、手伝って欲しい事があるそうよ」

 館の方から聞こえた声に、ガードが足を止める。
「ですが、警備の方は……」
「そう易々とは入れない所だもの、大丈夫よ。行ってきて」
 その声はイファだった。
 イファが館へと指を差す。
「はぁ」
 曖昧な返事でガードたちが館の中に入って行った。

「逃げるのはいいけど、もう少し計画を立てて欲しいわね」
 私たちのほうは見向きもせず、足を門へと進める。
 ピピッと小さな機械音。
 私たちは茂みから出て行った。
「監視カメラにばっちり姿は映ってるし」
 ぶつくさと言いながら手を動かしている。
「暗証番号も知らないんでしょう」
 リィーグルがイファを後ろから抱きしめた。

「イファ、来い。助けてやる。今度こそ絶対」

 胸が苦しくなったのはなぜだろう。
 イファは苦しげな、悲しげな表情をする。
「このままガードを呼び戻してもいいのよ」
 それは一瞬で、イファはリィーグルの腕を解いた。
「茶番は終わりだろ。お前を助けるために俺は!」
「私は、助けて欲しいなんて思ってないわ」
 リィーグルの声を遮ってイファは言い放つ。
「行って。私はやるべき事があるの」
 イファは外を指差した。
 私はリィーグルの袖を引く。
「イファ……」
 リィーグルは手を伸ばしかけて、やめた。
 ぎゅっと宙で拳になり、やがて諦めたように手を下げる。

 私は何もいえない。
 言っちゃいけない。
 リィーグルはくるりと向きを変え歩き出す。
 イファの指先が揺れていたのを知っているから。

 しばらく歩いた所に車が止めてあった。
「帰ろうか」
 呟くようにリィーグルが言って、車に乗り込んだ。
 私もそれに続く。パタンとドアが閉まると同時に動き出す車。

 イファはきっとリィーグルの傍にいられない。
 イファは……もう、助けられるような場所にいないから。



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