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― ドールメモリー<飛び立つ私>4 ―

2023/09/07
文字数:1170文字

  残像


 車はかなり走った。
 日が暮れる頃に走り出した車は、朝になる頃やっと止まった。

「この辺りまでくればいいか」

 人気の無い川の傍。
 独り言のように呟き、リィーグルは車から降りた。
 私も同じように車から降りる。
 水辺に近づいて、リィーグルは伸びをする。
 私はその隣に座り込んだ。
「どうして、どうして私を助けたの?」
 聞きたくて、聞けなかった言葉を口にする。
「助けたかったのはイファの方でしょ?」
 何も言わないリィーグル。
 風の音だけがサワサワと通り過ぎた。

「最初はイファだけを助ける気だったんだ。
 イファは自分は後でいい。それよりも、他のドールを助けてというから手助けした。
 結局、イファだけを助けられなかった」
 淡々とリィーグルは話し出す。
「イファは死んだと思った。その後でディメル、お前を見たときは驚いた。
 ドール達は皆、散じりになって全て回収されたとも思ったからな。
 お前を見つけたのは偶然だったんだ」
「偶然?本当に?だったら、なぜ黙っていたのですか?」
 私は不思議そうに聞く。
「本当だ。ドールだって事を黙っていたのは、本当の事を知れば傷つくと思ったから……
 その後で、イファにあった時も驚いたよ。
 あの時はガードがいたから、下手な事は言えないんだって判ったしな。
 こっそり貰った手紙には『サファを渡して、その代わりにイファを渡す』って書いてあった」
「なんで、それで私を引き渡してしまったのですか?私は……」
 私の言葉を遮ってリィーグルは話を続けた。
「何考えてるのか知らんが、考えがあっての事だろうと思って渡してみたら、
 こっちに来たドールが教えてくれたね。研究所は短命の不良品を俺に渡したんだって」
 リィーグルは私に視線を合わせるように、座った。
「お前を助けなきゃって思った。
 どうしてかな。イファを助けたかったのに、助けられなかったのに」
 唇をかみ締め、拳を強く握り締める。
「リィーグルのせいじゃないよ」
 慰めにもならない言葉を私は言ってしまった。
 リィーグルは私の髪を掻き揚げて、笑った。

「お前が、ディメルが助かってよかったって今は思うんだ」

 どくん。
 小さく胸が躍った。いけない。だって、リィーグルはイファを……
「どうして」
「どうしてかな」
 繰り返す言葉。
 風だけが舞うその場所で、私はリィーグルの瞳から目が離せなかった。
 やがて、リィーグルが視線を遠く、家のあった場所へと向ける。

「さて、行くか」 

 どれくらいそうしていたのか、唐突にリィーグルが立ち上がる。
 私も同じように立ち上がった。
「何処へいくんですか?」
「さぁ?風の向くままかな」
「これからどうするんですか?」
「気の向くままに……ってね」
 私の質問にはぐらかしたように答える。

「とりあえず、幸せ探しに行くか?」

「はいです」

 私たちは車に乗り込んだ。
 まだ見ぬ、幸せを探して。




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