文字数:2000文字
中学の時はまだ良かったのかもしれない。
成績の良い私を皆慕ってくれた。
でも、高校にはいるとそうではなくなった。
私を妬む人が多くなった。
私が入ったのは有名な進学校。
当たり前だとも思う。
成績のことしか頭に無い人の集まりだもの。
おかげで友達といえる人なんていない。
でも、最近親しくなった人がいた。
今日も放課後にはその人に会いに行く。
「透 センセ」
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今日も放課後にはその人に会いに行く。
「
私は相談室の扉を開け、その人の名を呼ぶ。
「やあ、また来たのかい」
センセはクルリと白衣をひるがえらせ、私の方を見てくれる。
「だって~あのクラス陰険なんだよ」
甘えた声で先生にすがる。
透先生は眼鏡を外しながら、やれやれと言った表情だ。
私は近くにあったイスに座る。
「昨日もね~」
昨日のクラスメイトのやったことを説明する。
センセは何も言わずに話を聞く。
そして話し終わった後に。
「冠瀬さんは幸せだね」
そう言って、頭を撫でてくれる。
こんな風に子供扱いしてくれるセンセが好き。
「???どこが?」
「僕にはそんな悩みなんてないから」
少し悲しげに微笑むセンセ。
「悩みがないって良い事じゃないの?」
「そうかな?僕には何もないんだよ」
先生の手は時々机の上で動く。
「何も?親とか友人とかいるでしょ?」
「無いよ。僕がここに存在することも無意味なんだよ」
「そんな事無いよ。私が居るもの」
言ってしまってから、焦った。
私の顔は真っ赤になってただろう。
「そ、それに研究もあるでしょ?」
「研究ね」
そう言ったセンセの顔はつらそうで、悲しげで・・・
私はひょいと立ち上がり、センセの机の上を覗く。
なにやら訳の分からない記号の書かれたノート。
意味不明の物体らしき絵も描かれている。
「これが今回の研究?」
「そうだよ」
センセはペンを持ち、またそのノートに何か書き足す。
「何これ?何の研究なの?」
「人にばれたら困る、国家プロジェクト」
・・・・。
『秘密だよ』と言う風に人差し指を唇に当ててウィンクするセンセ。
「こんなところでやってて良いの?」
「分からないように記号化してるから、大丈夫なんだ」
どこから何処までが本当なんだか。
確かだいぶん前に、センセの経歴を聞いたことがある。
「僕はね。子供の頃から国家に英才教育を受けていたんだ。
だから、5歳には大学までの知識は吸収してた。
その後はまあ、いろいろな研究をして過ごしてたよ。
天文学・医学・語学・ありとあらゆる知識は一応持ってるよ」
と笑って答えていた。
私はそれを呆然と聞いていた。
全てを鵜呑みにしたわけじゃないけど、確かに医師の免許は持っていた。
語学もいくつかマスターしたらしいとは聞いている。
それに、いくつかの博士号を持っているらしいとの噂も知っていた。
だから、全部が嘘だとは思わないけど・・・
そんな人が、高校の教師をしてるわけがない。
空想癖もある人なのだと理解した。
私はボーとそのノートを見ていた。
と、ある記号に気が付いた。
確か化学の教科書にあったような記号。
「あ、これ知ってる。原子記号?」
私は指を指して聞いてみた。
「それじゃあ、すぐにばれちゃうだろ」
センセは笑いながら答える。
「そーだね」
私はペロリと舌を出してみせた。
そう簡単に分かる記号なわけないか。
「そろそろ会議の時間だ」
パタンとノートが閉じられる。
時計を見て白衣を脱ぎ捨ててゆく。
「えーもう行っちゃうの」
だだをこねるような私の声にセンセは振り向いた。
「冠瀬さんはどうするんだい?まだここにいる?」
私はプーと頬を膨らませる。
「まだ、いる。センセが帰ってくるの待ってる」
「遅くなるよ」
センセは困ったような顔をする。
「いいの」
「じゃ、いい子にしてなさい」
そう言ってセンセは扉を閉めた。
・・・。センセがいなきゃ、つまんない。
私はさっきまでセンセが書き込んでいたノートを広げた。
何の研究なんだろ。
えーと・・・。
って考えても記号ばかりじゃわかるわけ・・・
私はふとあることに気づいた。
前に教えてくれた暗号の解き方。
それと同じだ。
!!
私はパタンとノートを閉じ、その場から駆けだした。
急いで家に帰り、部屋に閉じこもる。
ノートの記号。
先生の言葉。
暗号の文字。
全てが頭の中で回っている。
だって、あのノートに書かれていたのは・・・
1週間、私はセンセに会いに行かなかった。
「冠瀬さん、最近来ないけど、どうかした?」
その日ばったりと廊下で会ったセンセの顔はいつも通り。
優しい笑顔。
眼鏡の奥の柔らかな瞳。
ゆっくりとした語り方。
「え。あの、その。ちょっと忙しくて」
私は明らかに動揺していた。
「そう。久しぶりに来ないかい?珍しい物が手に入ったんだ」
あの日の事は夢?
それとも私の勘違い?
「あ・・。はい」
私は気づかないうちに返事をしていた。
あまりにも自然なセンセの誘いを断れなかった。
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