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― 第3章 飢渇の星【餓鬼】1 ―

2023/09/01
文字数:1666文字

 ・・・・。
 あの時・・・。
 風に舞う砂に起こされた。
 私は何も分からず、歩き出した。
 あれから、どれくらい経ったのだろう。
 何度も死を望み、手首を切る。
 その度に目が覚め、傷はふさがる。
 何度も死を願い、毒を飲む。
 その度に目が覚め、体は何事もない。
 飢えも喉の渇きも感じない。
 老いもない―――

 私の体は明らかに変わったのだ。
 疑問符は増え、答える者は居ない。
 私の想いはもう誰にも届かない。



 やがて、この星に生き物を見つけた。
 ただ、それは人ではなかった。
 それでも、私にはそれが救い。
 そして進化を遂げ人が生まれる。
 ただ、この星は軌道が動いて日の光が強くなった。
 そう太陽に星が近づく時期。
 それ故に植物は育ちにくい。
 同時に生き物も生きにくい環境だった。



 カタタ・・・・
 子供が一人、私の前を走りすぎた。
 子供の腰には肉の付いた人骨が巻き付けられている。
 ギョロッとした大きな瞳。
 テプッとした大きなお腹。
 ヒョロッとした細い手足。

 餓鬼・・・。
 角があれば鬼とも思えるだろう。
 だが、ここではそれは当たり前。
 子のために親は子に食べられる。
 それほどに、生きていく事が難しい環境。
 この星のほとんどが砂漠となっている。
 私は岩の影で涼んでいた。
 先ほどの子が戻ってきて私を見つめる。
「悪いけど、エサになる気はないよ」
 私はその子にそう言う。
 もっとも、言ってもムダかな。
 ガッツ
 いきなり腕に噛みついてくる。
 痛みはない。
 私はその子を簡単に払いのける。
「エサになる気はないんだってば!!」
 この暑さのせいでただでさえ苛立ってるのに。
 砂に突っ伏したままの子供はピクリとも動かない。
 そんなに強く払ったつもりはない。

 まさか・・・

 私は慌てて、その子供に駆け寄った。
 息はしているようだが、意識がない。
 とりあえず、その子を岩の影に運ぶ。
 近くに水場があったのを思い出し、汲んでくる。

「ん・・・」

 水を飲んでくれたみたいで、ゆっくりと目が開かれる。

「おなか・・・す・・いた」

 そう言えば私を食べに来たのだっけ?
 でも、私は食べられる気はない。
 何か食べ物ってあった?
 私は砂の下に植物があったのを思いだした。
 確か、随分前に動物たちが食べていたから平気なはず。
 根に近い形のその植物を掘り起こし、食べさせてみた。
 もちろん、私は食べたことがない。
 毒かもしれないという不安はあった。
 が、その子はガツガツと食べて寝てしまった。

 それを見届けてから、私も眠った。

 もう、日は暮れかけていた。



「冠瀬さん。また来てくれたのかい?」
 白衣の先生が私の頭を撫でながら言う。
「うん。だって、この場所の方が落ち着くモノ」
 私は笑いながらそう答えている。
「貴夜。いい加減に起きなさい」
 お母さんの声が後ろから聞こえた。
「せんせい?おかあさん?」
 見慣れたその風景が歪んでゆく。

「まって・・・」

 白く白く白く
 白い闇に飲まれて・・・・


 身体が揺すぶられている。
 私はハッと目を覚ました。
「どうしたの?」
 目の前には子供の姿。
「なんでもない」
 私は起きあがりながら答えた。
「ねえ・・・。僕どうしよう」
 その子は俯いて私の顔を見ないようにしながら唐突に言った。
「?何が?」

 私には何がなんだか分からない。
「あのね。エサを持って帰らなきゃ怒られちゃう」
「誰に?」

鬼炎きえんに」

 鬼炎と言う名は聞いたことがある。
 確か、最大最強の「ラー」と言う名の賊のリーダーで獲物にしたモノは絶対に逃がさないって・・・

 でもそれは数十年前のこと。
 今もそのリーダーをやっているはずはない。
「だったら、帰らなきゃいいじゃない」
 私はあっさりと言ってみた。

「ダメなんだ。だって・・・」

 ヒュッ
 微かな風を切る音と共に一本の矢が襲ってきた。
 その子がとっさに私を庇ってくれる。
 私は矢の向かってきた方を見る。
 と・・・そこには。

「なるほど・・・。これが『ラー』ね」
 私はため息を一つつく。

 約50人ほどの人間がぐるりと辺りを取り囲んでいた。
 私もエモノにされたみたい。




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