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― 第4章 微睡の星【精霊】1 ―

2023/09/01
文字数:1264文字

 月が沈み、日が昇る。
 産まれるモノがあり、死に行くモノがある。
 植物が茂り人が増える。
 私はタダそれを見ていた。
 延々と続く時間を見つめていた。
 それ以外何が出来るだろう。
 何が・・・。

「ねえ。寒くないの?」
 一人の少女が私に声をかける。

 寒い?

「いつもここにいるね。何してるの?」

 ああ、氷河期の今は寒いんだ。
 ゆっくりと思考が動く。
 そして、幾千年と動くことの無かった唇が開く。

「何も・・・」

 雪が静かに舞っている。
 虚ろながらも目でそれを追った。

「お手テ、冷たいね。暖めてあげる」

 私の手を取り、その子が擦る。
 ふさふさの動物の毛皮の服と靴を着てる少女。
 それに対して私は薄い布の衣服をまとっているだけ。

「あのね、向こうにママが居るの。向こうで暖まろうよ」
 そう言って、私の手を引っ張る。
 少女が指さした方には遊牧民達のテントがあった。

「そうだね」

 私はそれだけ言い、ゆっくりと立ち上がった。
 少女は私の手を放さずに軽く引っ張る。

「はやく」

 ルンと弾んだ声でその子は笑いかける。
 私もつられて微笑み返した。


 延々と歩いたと思う。
 近くに見えていたテントは相変わらず近くに見えるが、一向に辿り着けない。
 少女ははずんだ足取りで先を歩く。

「ねえ?何処まで行くの?」
 少女に引かれる手を引っ張り訪ねる。

「もう少し」
 振り返らずに相変わらずの弾んだ声で答えてきた。
 風が耳元を微かにくすぐる。
 炎が辺りを照らし出し、辺りが氷で覆われていることを知らせる。
 氷の中にテントがある。
 ここは氷の洞窟の中!?まやかしだった?

「あれ?もう気づいちゃったの?」
 くすくすと笑い声が辺りに響いた。

「あなた・・・誰?」
 急激に冷たくなった少女の手を振り払う。
氷霊ひれいだよ。神に選ばれた力を持つモノ」
「力って・・・もしかして鬼炎の言ってた?」

 目の前に氷がつきだし、それが形を変えてイスのようになる。
 少女はそれにピョンと座る。

「そうだよ。鬼炎はあなたを試したの。自分を殺せるモノかどうか」
「な・・・なによそれ?私を殺そうとしてたんじゃないの?」 

 私はあの時の様子を思い出す。

「ちがうよぉ。鬼炎は死ぬことを望んでたもん。
 かといってキヨは簡単に自分を殺してくれそうにないし、
 だから、あんな風に挑発したんだよ」
 挑発した?サザを殺して?
 氷霊は私をちらりと見やり言葉を続けた。

「まあ、サザのことはちょっとした見当違いだったらしいけどね」

 少女はいともあっさりと言う。
 まるで私の考えに気づいたように。

「見当違い?そんな事であの子を殺したって言うの!!?」
「やだなぁ。そんなに怒らないでよ。キヨだって殺したでしょ?」
 一旦言葉を切り、私に向き直る。

「鬼炎と一緒にたくさん」

 ニッと笑った顔が悪魔のように思えた。
 あの場所にいたのは鬼炎だけじゃない。

 『ラー』の集団が居た。
 私は彼らも殺していたのだった。
 キュッと唇をかみしめる。
 風が小さく呻いて氷霊へと襲いかかった。
 氷壁が氷霊を護るように取り囲む。
 風がかまいたちのような痕を氷に刻み込んだ。




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