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― フォールドリーム 番外編2 ―

2023/08/31

≪もしも、記憶が戻らなかったら?≫編

 【病院】

 眠ったままの雅深。
 周りにはいろいろな機械が取り付けられている。
 人のいないその部屋はガランとしている。
 外は、枯葉がまっている。
 人は寒そうに足早に歩いている。
 コチ コチ コチ
 その部屋は時計の音だけが響いていた。

 外からナースの声が聞こえてくる。
「この病室の患者さん、いったいいつからここにいるんですか?」
「もう30年近く眠っているらしいわ」
「でも、お見舞いの人とかあまり来ませんよね」
「見放されてるのよ。ずーと病院にいれとく気だと思うわ」
「そうなんですか。なんだか可哀相ですね」
 そうして、ナースたちの声は遠くなって行く。

 真っ白なその部屋の中。
 聞こえるのは時計の音。
 そこにあるのは眠ったままの身体。

 けれど――――――――

 キャハ  クススッ

 雅深に聞こえるのは波の音。
 見てるのは深織の姿。
 そこにあるのは、雅深だけの楽園。

 雅深は夢を見つづける。




≪もしも、ナイフが刺さってしまったら?≫編

 【バイバイ】 

 ――――――
 今夜は、眠れない。
 ザ――ン  ザザッ――ン
 遠くで波の音が聞こえる。
 部屋の中は暗く、何も見えない。
 夜の静寂が辺りを包み込む。
 カタン
 障子戸が開いて、深織が入ってきた。
 深織の手に光るものが見えた。
「眠れないの?」
 深織が僕に聞いてきた。
「深織も?」
 僕は聞き返す。
「うん」
 しばらくの沈黙。
 目が暗闇になれてくる。
「殺さないの?」
 僕は深織に聞いた。
 深織はたぶん、僕を殺すためにこの部屋に来たんだ。
 深織が驚いた顔を上げる。
 動揺した瞳を僕に向ける。
 そして、静かに銀のナイフを持った手を、振り上げる。
 その手が、震えているのがわかる。
 あの『夢』のように
 ザン
 波の音と同時に、僕に向かってナイフを・・・
 ――――――――――

 暖かいぬくもりが、胸に広がる。
 赤黒い血が流れでる。
「カイ!!」
 深織の叫び声が聞こえる。
 僕は痛みを感じているんだろうか?
「ごめんなさい。ごめ・・・な・・・」
 深織が泣きながら、すがりついてくる。
「大丈夫だよ。深織」
 言いながら、頭の片隅で『死ぬかも』と思った。
 心臓が必死で動いているのがわかる。
「何処にも行って欲しくなかったの・・・」
 抱きしめている深織が震えながら言った。
 だんだん呼吸が早くなっていく。
「でも、もう終わりだね。あなたがいないと―――」 
 深織が顔を上げた。
 泣いてなんかいない。

「この世界は崩れるわ」

 笑っている?

 かすれる目で深織を見つめる。
 揺れる。
 深織の姿が・・・
 そして周りの景色が――――
 水の中のように、体が思うように動かない。

 沈む意識の中最後に見たのは、水の泡となる深織の姿。

717文字

    


15歳・冬