文字数:2151文字
「じゃあね。また明日、
「バイバーイ」
友達と別れた後、私は公園の前で足を止めた。
委員会で学校に遅くまで残っていたので、あたりはもう暗くなっている。
雪も降ってるし、公園の中を通っていこうかな。
そう思ったのは偶然だった。
公園を通るのは近道になる。
だけど、いつもは通らない道だった。
人の姿はなく、電灯が公園を照らしている。
ガサッ
突然の音に身体がビクンと震えた。
なんだかいやな予感がした。
私は音のした茂みの陰を覗きこんだ。
そこには、普通の恋人同士が抱き合っている姿があった。
なーんだ。
見なかったことにして通り過ぎようとした時だった。
え?
一人が崩れ落ちるようにもう一人によりかかる。
女の人が干からびている!?
そして、男の人がゆっくりとこちらを振り返る。
!!
目が合った。
その唇からは血が滴り落ちている。
雪が血に染まる。
背筋が凍りついた。
―――人間じゃない!!――――
直感的にそう思った。
私は慌ててその場を逃げ出した。
バタッ バタタンッ
家の階段を一気に駆け上がって自分の部屋に入った。
ハァハァ
息が苦しい。
何だったんだろう?
もう一度よく考えてみた。
あの女の人死んでしまったのかな?
ちがうよね。
人があんな風に死ぬことなんてないもの。
あれはきっと何かの見間違えで・・・
―――違う―――
私の頭のどこかでそう感じてる。
―――彼はあの人を殺した。―――
どうやって?
―――血を吸って―――
!!
そんなはずない。
まるで、 吸血鬼 ・・・みたいな
ヴァンパイア?
もし彼がヴァンパイアなら私の願いが・・・
――――――
何考えてるんだろう。
バカみたい。
ヴァンパイアなんているはずないのに。
早く寝てしまおう。
そうしたら、きっと何もかも忘れている。
私は早々とベットに入った。
夢を見た―――
悪魔の夢。
どこかの森の中を走っていた。
この身体が勝手に動いている。
(逃げないと・・・
鬼が追いかけてくる。)
誰の声?
(早く逃げないと)
声は頭の中から聞こえてくる。
この身体、私のじゃない?
男の身体みたいな?
この身体は、森の中の道なき道を走ってる。
身体のあちこちに小さな引っ掻き傷がついている。
突き出た小枝がまた傷をつけていく。
「捕まえろ!」
「逃がすな!!」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
(逃げないと・・・
殺される。)
この身体の持ち主の声?
ピタ
足が止まった。
目の前にあるのは崖だった。
ガサッ
「いたぞ!ここだ」
すぐ後ろから声が聞こえた。
(逃げられない!!)
身体が声のした方に振り向く。
え?
鬼じゃない。
追いかけてきたのは人間だった。
中世のヨーロッパみたいな村人の服装をした男達。
ただ、鬼みたいに恐い顔をしてるけど・・・
「殺せ!!そいつは悪魔だ」
「生かしとけば、また犠牲者が出る」
何言ってるの?
「殺せ!」
足が後ろに少しずつ下がっていく。
これ以上下がったら落ちちゃう。
ガラリ
あっ!!
足元が崩れる。
(このままじゃ,死ねない!!)
身体が宙を舞う。
(死にたくない)
真下に広がるのは闇だった。
きゃああああああぁぁぁ
――――――――――!!
ドシンッ
「あたたっ」
目が覚めた。
どうやらベットから落ちたようだ。
何なの?あのユメは・・・
コンコン
「華雪。いい加減に起きないと遅刻しちまうぞ」
お兄ちゃんがいつものように起こしてくれる。
遅刻?
傍にあった時計に目をやる。
げ!!
やばい・・・。
慌てて着替えをすませる。
そして、階段を駆け下りる。
キッチンにあるトーストを急いでほうばる。
「もう少し落ちついて食えよ」
「そんなひまないってば!!」
そう言いながらも、ふとテレビに目がいった。
「あ!」
テレビの画面には、昨日のあの女の人がでていた。
『被害者は、外傷がなく全身の血が抜き取られていることから・・・』
一瞬昨日のことがよみがえった。
全身の血が抜き取られて?
「なにやってんだ?時間がなかったんじゃないのか」
お兄ちゃんの声にハっとした。
「え?きゃあ!遅刻しちゃう」
バタバタ
「いってきまーす」
バタンッ
やっと、学校が終わった。
その帰り道、雪が降ってきた。
あーあ、さんざんな一日だった。
家の前で思いっきり滑るし、結局遅刻はしちゃうし・・・
信号が点滅してる。
車が目の前を通り過ぎて行く。
あれ? あの人昨日の・・・
ヴァンパイア―――
交差点の向こう側にあの人がいる。
雪の舞い降る中、その人は傘も差さずに立っていた。
彼は、じっと私を見つめている。
彼の瞳は・・・
あれは、遥かな記憶
私の・・・
「あぶない!華雪!」
え?
誰かにグイッと引っ張られた。
そして、私の目の前を車が通って行く。
「何やってんだバカ!!」
振り返ったその先には
「お兄ちゃん!」
「死ぬ気かよ。フラフラと車道に出るなんて・・・」
あ、あの人は?
交差点の向こうにその姿はなかった。
「聞いてるのか!!」
お兄ちゃんの怒鳴り声が耳元で響いた。
「うん。聞いてるよ」
家に帰るまで、お兄ちゃんは小言を言いつづけた。
が、私の耳には届いてなかったみたいで、私はあの人のことばかり考えていた。