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【運命・縁】 ~全てはすでに縁という意図~2
「そうだったね」
思い出し、笑顔がこぼれる。
「人が不死を得て300年待った。あと少しの時間ぐらい待てるよ」
「300年か。永かった?」
「ううん。そんなこともない。私達の時間はもっと永いから」
小さく首を振る少女は、実際どれくらい生きているのだろう。
「ごめん」
「謝らなくていいんだってば。でも、覚えておいて。
これ以上は予見できない。未来は予測不可能な領域になってる」
真面目な顔で死神は告げる。
それは、予測された未来より最悪の事が起こるのか
それとも……
決定の時は近い。
それを知っていて、死神は僕の前に現れた。
研究所の廊下で、目の前から航が歩いてくる。
「で、決まったのか?」
航は自信満々の笑みで僕に聞いた。
僕が断らない事を知っていながら――
「ああ、明日。研究所に返事を出すよ」
「明日か。じゃ、明日、資料を渡す」
そのまま、航は通り過ぎた。
……大切だというのだろうか……
白い廊下に、靴音だけが鳴り響いていた。
貴夜が相談室の扉を開けて入ってくる。
話す事はいつも他愛のないことばかり。
「星空みたいだね」
貴夜がノートを見ながら、ぽつりと聞いた。
「あたり。これは天空だよ。夜のね」
僕は笑いながら答える。
「研究じゃなかったの?」
「これは趣味だよ。学校でそんな事しないよ。」
「天文学?」
「そんな難しい物じゃないよ。
星の名前とか神話とか書き留めてあるだけ」
「さてと・・・。会議の時間だ」
時計を見て白衣を脱ぎ捨る。
「えーもう行っちゃうの」
「冠瀬さんはどうするんだい?まだここにいる?」
「ココア飲んでる間に戻ってこなかったら帰る」
「わかった。じゃ、いい子にしてなさい」
パタンと扉を閉めて、僕は足早に研究所へと行く。
大切だというのだろうか―
何も知らず、何も疑わなかったあの子。
僕が覚えてるのは小さな手。
それを守る為に?救う為に?
バタアァン
全ての人を眠らせたはずの研究所に、一際大きい音が鳴り響いた。
「氷霊から聞いて、まさかと思ったけど……」
入ってきたのは研究所の外へ行っているはずの鬼炎だった。
息を弾ませ、困惑した顔だ。
「何が?」
僕はニッコリと答える。
「透、何があったんだよ?」
整えられてゆく呼吸の合間から、ゆっくりと言葉が紡ぎだされた。
「『定め』の時が来ただけだよ。」
「何だよ。それ……何のために!!」
一片の風が建物の中を通り抜けた。
「人が生を歪めて、300年。罪は償わなければ、ならない。
研究所が始めた研究。罪悪は成功に掻き消されては、いない。
不老不死は大罪。生態系の全てを狂わせ、世界を破壊に導く。
そして―神の予見は外れない」
鬼炎の赤い瞳が揺れる。
「何が起こる?いや、何を起こす気なんだ?とおる!!」
「残るのは七つ星だけ。
未来は全て貴夜の手の中だよ」
望んでいる。望まなかった。
『どうして、あの時を<願う>のだろう』
風がぴたりと止まった。
「透?」
「時間の果てはどんなだろう?
ねぇ、鬼炎どう思う?」
答えはない。
鬼炎が何かを叫んだような気がしたが、全てが風に消されてしまった。
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