9:再生
文字数:約386文字
懐かしい思い出。それは― 何時からあるの?
――――――――――――†――――――――――――
サクッ
踏みしめた雪が小さく音を立てる。
スッと見つめた先には古い大木。
がっしりと根を下ろし、悠々とそれは立っていた。
「君だけは変わらないね」
私はその樹の幹を両腕で抱きしめる。
遠く遠い記憶の果て、赤く燃える町をここで見下ろした。
その時は抱えられた幹が今では太く、とても抱えられたものじゃない。
「変わったね」
見下ろす街は見知らぬ街。
人も建物も何もかもがあの時と違う。
燃えた町が還るはずも無いのに。
「いや、君も変わったんだね」
ふと、大樹を見上げる。
枝は寒々として、空を仰ぐ。
樹は何も語らない。
ズッズズズンッ
大きな音を立てて、静かにそれは倒れた。
まるで私を待っていたというように。
「お疲れ様。そして―」
傍には小さな新芽。
「はじめまして」
役目を終えた、彼は命を繋ぐ。
新しい世代のために―
<<前へ 時 次へ>>