10:贅沢な寂しさ
文字数:約689文字
キラキラ耀くイルミネーション。それが寂しいのは― 何故ですか?
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ぺったりと窓に付けた手からヒンヤリとした感触。
「何を見ていらっしゃるのです?」
後ろから事務的な声が聞こえる。
「別に。ただ、綺麗だなって」
見つめる先には街のネオン。
夜の闇とチラチラと舞う雪の中、それはとても幻想的。
「そうですか。ですが、早くお休みください。
今夜はとても冷えるそうですよ」
僕はそれを聞いて、ベットへと潜り込む。
それを見届けて、使用人が布団を掛けた。
「では、お休みなさいませ」
恭しく頭を下げ、電気を消して使用人が出て行った。
パタン
残されたのは、夜の闇と月の光。
部屋は物音一つしない。
「ねぇ。いる?……」
ベットを出て、誰もいないはずの部屋に問う。
「ここにいるよ」
優しい声が返ってくる。
窓辺へと手を伸ばし、頬を付ける。
冷たい空気が、火照った頬に気持ちいい。
「あの光の下には幸せがあるのかな」
吐く息でガラスが白く曇った。
「幸せではないの?」
「分からない。他人は僕を幸せだというけど、何が幸せなんだろう?
確かに暖かい家があって、食べるに困らず、欲しいと思えば何でも手に入る。
それが幸せっていうなら、たぶんあってると思う。
けど、僕は自分が何が欲しいかわからない。」
冷たい外と対照的な暖かな部屋。
それなのにどうしようもない虚無感だけが僕の心を支配する。
「贅沢だね」
「そうだね。
この空の下には寒さに凍えて飢えてる者もいるのに。
だけど、物で埋まったこの部屋のどれも僕の欲しいものじゃない」
明るい外と正反対な暗い部屋。
窓だけが微かに外の明かりを取り入れてる。
「どうかしたの?」
何時までたっても返事が無い。
気配すら何時の間にか消えていた。
……ああ、行っちゃったんだ。
心のどこかがぽっかりと穴があいたみたい。
「……いないの?…本当に?」
部屋の闇に声が吸い込まれて行く。
いつもだったら「おやすみ」の言葉を置いてゆくのに―
「見つかった?欲しいもの」
不意に聞こえた声。
その声は頭に響いて、心に染みた。
ホシカッタモノハ―
ただ、傍にいてくれる人でなく。
ただ、優しくしてくれる人でなく。
ただ、言葉を掛けてくれる人でなく。
心を逢わせてくれる人。
窓の外のイルミネーション。
手を伸ばせば届きそうで、届かない。
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