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― 籠の鳥 ―

2023/09/03

29:籠の鳥

文字数:475文字
 幸せの鳥は籠の外。
 いつか― 飛べますか?

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 幸せの鳥は籠の外。

 日々、私を見つめるだけの目はガラス球の様。
「歌って」
 彼女は呟くように言う。
 さらさらと流れる風に乗って、私の歌が部屋に満ちる。
「もっと……」
 ベットに座った彼女の視線は、私を通り過ぎ窓の向こう側。
「もっと、歌って」
 窓辺のカーテンが、ゆらゆらと揺れる。
 ゆっくりと立ち上がった彼女は、すーと私の傍へと歩み寄る。

 ガシャン

 転がった籠。
 籠の中の私。
 私の歌は彼女に届かない。
「どうして!!どうして、歌ってくれないの!?」
 彼女が欲しいのは、私の歌ではない。
「どうして……あなたは幸せの鳥ではなかったの?」
 泣きそうな瞳に涙は無く、ただ、私を通して遠くを見つめている。
 居るはずの無い存在を……。
「どうして……」
 つっと流れたのは涙ではなかった。
 籠で傷つけた傷痕から流れる雫。
 彼女はその痛みに気が付いていない。
 伸ばされた手が、籠を抱きしめる。

「歌って」
 私は歌う。
 彼女に届く事のない歌を。
 願いを込めて、日々歌う。
 彼女の呪縛が溶けるように。


 いつか飛べるといいね。




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