31:翼杖
文字数:約722文字
真白き翼の天の使い。地に落ちたる者は― 何望む?
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翼を。
地に落ちたる天の使いに―
「ありがとう」
少女がニッコリと私に微笑む。
「また、お金落とさないようにしっかり持ってね」
「うん!」
そう言って、駆け出していく。
私は、その後姿を見て呟く。
「これで、1万……」
知らず知らずのうちに顔がほころぶ。
「でしょ?翼の巫女様」
くるりと振り返ったそこには、左右の瞳が違う少女。
私は満面の笑みで彼女を見つめる。
「ルーファ。そんなに嬉しいか?」
呆れ顔で巫女は私を見下ろした。
「当ったり前!だって、酷いと思わない?
ちょっと、神の伝言を忘れただけで、天から落とされるなんて」
「ちょっと?あれだけ、伝えろと念を押されて忘れる方が悪い」
ため息混じりに巫女が答えた。
「わーかったってば、次は忘れないようにする。
で、『万の笑み』は得たわよ。翼を返してよ」
頭の中は天に帰れるという喜びでいっぱいだ。
巫女は仕方ないと言う風に杖を振る。
「判ったよ」
シャラン
『翼杖』と呼ばれる杖から羽根が舞う。
いつ見ても綺麗な光景にうっとりと見とれてしまった。
「はい。終わり。また、落とされないように……」
私は小言を聞く前に飛び立つ。
「わかったってばーーーーー」
捨て台詞を残して、いざ天へ。
……。
目の前には呆れ顔の翼の巫女。
私は小さくなって俯くばかり。
「で、なにをやらかしたんだ?」
「あ、あはは。ちょっと、伝言を間違えて
生きてる人を殺しちゃっただけで……」
「……」
巫女は頭を抱えてる。
「違うの。あのさ、別に本人達にとっては良い事で……」
「もう、いい。いっそ、このまま地に住みついたらどうだ?」
「巫女さまぁ~~」
悲痛な声だけが天と地の間に響き渡った。
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