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― ふたつの瞳 ―

2023/09/03

32:ふたつの瞳

文字数:686文字
 奇妙な世界とこちらの世界。
 もう一つの瞳は― どこにいる?

――――――――――――†――――――――――――

 紅い瞳の女の子が僕を覗き込む。
 僕そっくりの顔で笑いかける。
 それは、とても奇妙な感覚で僕もつられて笑いかけた。


 それは一瞬の夢だった。いや、夢だと思った。
 鏡があるわけでもないのに、もう一人の自分が見えたのだから。
 だけど、それは徐々に見える回数が時間が増えた。
 そして―

「ダアレ?あなた、名前は?」

 しゃ、喋った???
 一人で羊達を追って丘へ出た時、その女の子は現れた。
「聞いてるんでしょ?それともこれって、やっぱり幻?」
「あ、はい。聞いてます」
 なぜだか知らないが、かしこまったように答えてしまった。
「聞いてるんなら、答えて頂戴。あなたは誰?」
「あ、っと。緑夏りょくかです」
 少々高飛車な少女に、ついつい敬語になってしまう。
「そう。私はローディアよ。あなた、そこにいるの?透けて見えるわ」
 そう言って手がすっと伸ばされる。
 僕もその手に合うように手を伸ばしてみる。
 触る―と思った瞬間。少女は消えてしまった。

 なんだったんだろう?
 僕に残ったのは風の音に似た彼女の声と紅い瞳の色。

 それ以後、幻を見ることはなくなった。


「ちょっと、聞いてるの?リョクカ。だいたいね、……」
「はいはい。聞いてますよ。お姫様」
 うんざりしながら彼女のおしゃべりに付き合う。
「だいだい、なんで、こんなのと双子なのか不思議だわ」
「それは僕の方」
 ぼそりと呟いた言葉をローディアは聞き逃さなかった。
「何ですって?」
「何でもないですよ」
 僕はしれっと返す。

 あの時、幻を見た日から僕はローディアに捕まっていたのかも知れない。




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