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― 神の降り立つ地にて ―

2023/09/03

35:神の降り立つ地にて

文字数:約890文字
 誰も踏み入れてはならぬ地。
 神話の伝わるその場所は― 何処なのでしょう?

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 その草原は人の立ち入らぬ場所。
 昔からの言い伝えで神の降り立つ神聖な土地なのだと言う。
「ルーア。これだけやって、それだけしか取れなかったの?」
「あ、うん」
 私は呼ばれた声に振り返る。
「もう、しょうがないなぁ。私の分、あげるよ。
 もう少ししたら、村に戻ろう」
 私の籠に木の実が入る。
「ありがと」
 アリアが手を振ってまた、森の奥へとかけて行った。
 小さなころからいつも、アリアは私を助けてくれる。
 私も、もう少し木の実を採ろうと枝に手を伸ばした時。
「きゃぁ」
 アリアの小さな悲鳴が耳に入った。
 私は声の方へと駆け出していた。
「アリア!!」
 木の下で倒れているアリアがいた。
 樹に登って木の実を採っていて、落ちたんだ。
 ピクリとも動かない。
 私は怖くて震える事しか出来なかった。
 その後、気がついた他の子達が大人を呼んできて、
 アリアは家に運ばれた。
 打ち所が悪かったのか、アリアは目を覚まさなかった。

 その夜、私は草原へ向かった。
 立ち入る事を禁じられた地。
 だけど、本当に神が降り立つなら、
 アリアを目覚めさせて欲しかった。
 言い伝えでは神は夜、月の光を浴びて降り立つと言われていたから。
 無我夢中で月の光に向かって走った。
 気がつくと靴はどこかへいって、はだしになっていた。
 刺の植物があたり一面を覆っていた。
 チクチクと肌が刺で痛い。
「子供が何をしにここへ?」
 声は上から響いていた。
「あ、アリアを助けて!!」
 私は白い衣を着たその人に向かって、叫んでいた。
「アリア?」
「友達なの。目を覚まさないの」
 ゆっくりと、その人は降りて来る。
 そして、私の目の前でニッコリと笑った。
「……わかった」
 そう言って、私を抱き上げる。
 私は安心して、体の力が抜けていった。
「でもね、もう、ここへ来ちゃだめだよ」
 意識が落ち行く中でそんな声が聞こえた。

「ここは、罪の地だから」

 次の日、アリアは目を覚ました。
 何事も無かったように、日々が過ぎて行った。
 あれからあの草原には一度も行っていない。




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