36:花舞う地にて
文字数:約389文字
一人消え行き、花が咲く。
誰にも知られぬように― なぜ咲くの?
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その手紙が届いたのは偶然。
波間に漂うビンの中に一通の手紙が入っていた。
中には
『いつか出会う。誰かへ―
一緒に行きましょう』
と書かれた紙……
ヒンヤリと手から雫が滴った。
それを見つけたのは、日課にしていた朝の散歩の途中。
誰にあてられたでもない手紙を、
私は家に帰って引き出しにしまった。
次の日にも手紙は来た。
『いつか逢う。貴方へ―
一緒に来て
~~~へ』
ビンの中に水が入った所為か、最後の文字がぼやけていた。
それを小箱にしまった。
次の日も私は手紙を拾う。
『逝ってしまった。住人へ―
一緒に傍にいて』
手紙は読み終わると空へと帰っていった。
あたり一面の花畑の中で一人それを見送った。
手紙は死した者へ届けられる。
死せば花が増えゆき、想いが届く。
誰も知らない花舞う地へと――
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