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― マッチ売りの少女の家族 ―

2024/03/18
文字数:743文字

1【マッチ売りの少女の家族】

「おうち、燃やしたい」

「は?」
 またまた、なんだか唐突とうとつな話が唐突に始まった。
 本から目を上げると、やはりこちらなんて一つも見てない少女がたどたどしく続ける。
「んとねー。自分のお家を燃やしちゃう人が増えてるんだって」
「それは……すごいな。次の日の住処すみかはどうするんだ?」

「けーむしょ?」


 無邪気むじゃきな口調で黙々もくもくと新聞をみている少女の目はランランとしている。
「で? 燃やしたいのか?」
「んー。ううん。別に燃やしたいわけではないけど」
 元の口調にもどしつつ、少女は少し首をかしげて考える。

「マッチ売りの少女がいっぱいいるんだなって思って……」


途中とちゅうを飛ばすな。もう少し、説明を入れろ」
 本にしおりをはさんで読むのはあきらめる。
 少女はこちらを見て、にっこりと笑う。

「自分の家を燃やしてしまう人は、家族に問題がある場合が多いんだって
 だから、『家を燃やしたい』わけじゃないんだよ。
 聞いてほしい何かがある。家族なら聞いてくれる。でも、家族だから聞いてくれない事もわかってる。

 家を燃やしたら、こっちをみてくれる。聞いてくれる。それを期待してる」

「つまらん……よくある話だ。いちいち、家を燃やしてたらキリがない」
 そっけなくつぶやいた声は少女に届いたらしい。
 キッとにらまれる。


「家族だからあきらめきれないんだよ。
 家族の幻影げんえいを消すために火をつけるのかもしれないし、
 家族であることを確認かくにんするために火を付けるのかもしれない。


 マッチ売りの少女もマッチの火の中に最後に見たのは
死んだおばあちゃん懐かしい家族の姿』だったでしょ」





 そんな話だったのか…と考えると同時に、少女が子供にもどってさけぶ。


「バカ―――」

 そして、部屋へやを飛び出していった。


 少女はこうやって聞くだけで満足しているのだろうと思う。
 とりあえず、今はただの戯言されごとで済む。




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