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― 現に眠りつく地にて ―

2023/09/03

44:現に眠りつく地にて

文字数:約562文字
 昔話を語りましょう。
 何時かの場所― 誰かの時間?

――――――――――――†――――――――――――

「昔話を語りましょう」
 婆様はいつもそう言って、お話を始める。
 見たことの無い世界、行った事の無い場所のお話を。

 この砂漠の向こう側から、一人の旅人がくる。
 お話はその旅人によってもたらされたのだと、婆様は言う。
「ねぇ。婆様、その旅人はどこへ行ったの?ここには居ないの?」
 私は問う。
「さあ、どうしたんだろうね」
 婆様は私の問いには何も答えず、ただ昔話だけが語られる。
 長く長い話が1つづつ終わり、10の話が続いた頃に私は気づき始める。
「ねぇ、婆様。それは実際の話?」
「さあねぇ。どうだったか」
 私の問いは答えの無いまま、疑問だけが膨れ上がる。

 そして、また10の話が終る頃私は問う。
「ねぇ。婆様。どうして、そんなにお話を知ってるの?」
「ねぇ、婆様。その話はいつのこと?」
「ねぇ。婆様……」
 そのたびに、答えは
「さぁねぇ」だった。

 やがて、問う事さえも止める。

 婆様は婆様のまま。
 老いていると思った姿は、やがて自分の姿と重なる。

 そして、最後の問いに婆様はやっと、答えてくれる。

「ねぇ。婆様。私のことを忘れない?」
「そうだねぇ。きっと」

 人から人へ伝わるもの。
 そうやって物語が作られるのだと、婆様は教えてくれる。




 時の交差の物語≪終≫





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