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― 全てが凍りつく地にて ―

2023/09/03

43:全てが凍りつく地にて

文字数:約765文字
 氷の世界。
 誰もいない世界の果て― たどり着く場所は?

――――――――――――†――――――――――――

 その地に踏み入れると言うことは死ぬと言うこと。
 誰をも拒む、その地に『調査』として入ったその隊。
 各国がその地への派遣を送り、そして、誰も戻らない。
 その隊に俺は居た。
「何か見つかったか?」
「なーんにも。氷のみの世界ですね」
 のんびりとした会話が交わされる。
 生物が見当たらない。
 死の地、未知の地と言われたその大地。
 数日の調査でも何も見つからない。
 生き物どころか、死体すらも。

 そうして、何度目かの夜を迎える。
 見張り一人……俺を残してみなが寝静まる。
 パチパチと跳ねる火を見つめていたときだった。

 地が……揺れた。

 一瞬して背後のテントは地の底へと飲み込まれる。
 なんだ?なにが起こってるんだ?
 混乱する頭で必死に考えるが足元は揺れ、何も出来なかった。
 地の底に落ちる体は天地さえ見分けられない。

 シャラン
 何かの音が聞こえた。
 指ひとつ動かない体で目だけを音の方に向ける。
 俺の目の前に現れたのは、白い人。
「……へぇ。まだ、生きてたの?奇跡だね。」
 それは笑って俺を見下ろした。
「あなたのその黒い髪、いいね。死んじゃったら、貰おうかな」
 かがみ込み、俺の髪を撫でる。
「……る、な」
 掠れる声で俺はそいつを睨んだ。
「……。生意気。ま、いっか。じゃ、私の質問に答えられたら、生かしてあげる」
 ポツリと呟いたそれは、おもちゃを見つけた子供のようだった。
「もちろん、代償と引き換えだけどね。……あなたの名前。言える?」
 にっと意地悪く、そいつは笑う。
 生きたい。生きられるなら……、こんなところで死ぬわけには行かない。
「イ……ザァ…………ナ」

 シャラン。
 音が降る。幾重にも積み重なって、肩に腕に掌に……

「氷の溶ける100年後の世界でね」
 声が冷酷に響いた。




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