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― 時砂の落つる地にて ―

2023/09/03

42:時砂の落つる地にて

文字数:約909文字
 光のみが広がる。
 砂と白い人― 違和感?

――――――――――――†――――――――――――

 そこは、白の空間。
 何も無い。
 ただ、ただ白い光の空間。
 どうして、ここに居るんだろう。
 ぼんやりとそう思う。
 何もない。
 何も無い空間で、私は座り込む。
 眠りについたと思った。
 ベットに入った事までは覚えている。
 そうして、気がつくとここに来ていた。

 白い空間から突如、人影が私の前に現れた。
 長い白いストレートの髪、白い服、白い肌のせいで、
 周りの白に溶け込んではいたが確かに人だ。
「あの……」
 声をかけようとした時、澄んだ声が発せられた。
「どうして、ここに居るの?」
 それは私がここに居るのが、おかしな事だと言う口調だった。
「ここ、どこ?」
「仕方が無いわね。いらっしゃい」
 会話にならない……。その人は、すたすたと私の前を歩き出した。
「あ、の。あなたは……」
「時間は戻ることが無いのよ。どんなに願っても……」
 私の声など聞こえないように、つぶやくように言ったと思うと立ち止まった。
 ふと前を見ると砂がさらさらと落ちてきていた。
 上を見ても何も無い。
 どこから砂が落ちているのかさっぱり判らない。

「ああ、その子?迷い人は」
 その声はその砂の下に居た人だった。
 似たような格好と姿。ただ、髪にはゆるくウェーブがかかっていた。
「あの?」
 私は聞きたいことを聞こうとしたが、その人は口に人差し指を当てて笑う。
「疑問は受け付けないよ。知りたいと言うなら、戻れない覚悟でね」
「後は、任せたわ」
 ストレートの髪の方が、もう一人に言った。
「判ってるって。でも、このまま何も知らずにって言うのは不満みたいだね」
 後半は私に向けられた言葉だった。
「そりゃ、そうよ。ここはどこで、あなたたちは誰でどうして、私はここに居るの?」
「ま、簡単に言っておくわ。次元が違うのよ。
 それ以上知りたいなんて思わないでね。帰りたいでしょ?」
 その声と同時に音が鳴る。
 キィーンと耳を突くような……。

「戻らなきゃね。ここに居ると言うことは罪を負う事だよ」
 どこかから、そんな声が聞こえた。


 目が覚めるとそこは現実で……。
 何も無い。荒野の一軒家。元に戻らない。
 誰も居なくなる前には、あの笑える日々には。




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