編集

― 魔満ち溢れる地にて ―

2023/09/03

41:魔満ち溢れる地にて

文字数:約483文字
 呼び声が響き渡る。
 青い月の空間からの来訪者― 不思議?

――――――――――――†――――――――――――

 声が聞こえる。
 あれは呼ぶ声。
 僕を、呼ぶ声。
 泣いてる。呼んでる。
「ここへ……キテ」
 漂う意識の中、体を持たない僕は声の聞こえる場所へ行く。
「誰?」
 始めて見た人物が彼だった。
 四角く切り取られた空間の向こう側。
 彼は僕に向かって「誰?」ともう一度問う。
「僕……?」
 声が自然と吐き出された。
「そう、君、誰?」
「判らない」
「名前は?」
「無い」
 水の中のような感覚と、声だけが辺りに反射して満ちる。
「貴方は誰?」
 私は聞き返す。
「僕は、ディオス。君に名前が無いなら、つけてあげる。
君はね。ロゼ。綺麗な金髪と青い瞳の人間だよ」
 名前と人の形を与えられた途端、僕はディオスに引寄せられた。
 四角いと思っていた空間の向こう側は広くて、
 僕の居た場所が箱の中だったのだと気づいた。
「ここ……」
「ねぇ。遊ぼうよ。君はそのために来たんでしょ?」
 引寄せられるまま、外へ飛び出す。
 夜空をかけて、笑い声を交わす。

 ――――朝日が昇る。
 夢の時間は終わりを告げて、僕の存在さえなかった事に。




<<前へ    次へ>>