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― 砂散り逝く地にて ―

2023/09/03

40:砂散り逝く地にて

文字数:約618文字
 君へ贈る死への花束。
 たった一つの望み― 叶いましたか?

――――――――――――†――――――――――――

「オリ。この砂漠の向こうに何があるの?」
「なんだろね?ミリ」

 小さな頃は二人で遠くを見に行った。
 何処までも続く砂漠のように、永遠に一緒だと思っていた。
「砂漠の向こうには街があるんですよ。
 その向こうには海がありますよ」
 そう教えてくれたのは、予見者兼教師のサキだった。
「街って何?」
「海って何?」
 それぞれ同時に聞いてみる。
「街は人がいっぱい居る場所です。
 海は大きくて塩辛い泉ですよ」
 サキは、そう言っていた。


「ミリは行っちゃうんだね。
 海の近くの街に行っちゃうんだね」
「そうよ。行っちゃうの。
 私を欲しいと言う人が其処に居るから」
 ミリは抑揚の無い声で髪を梳きながら言った。
「いか……」
 それを言えば泣き出してしまいそうだから。
「おめでとう」
 搾り出すようにそれだけ言って、部屋を出た。
 サキはミリのお付きとして行ってしまった。
 残ったのは僕だけ。
 取り残されたのは僕だけ。


「オリ……私も殺すの?あなたが……私…を…?」
「……そうする以外、どうすれば良かったと?」

 ポタン。

 どうしようも無かった。
 手に生暖かい液体が広がる。
 ただ。
 焦点を失っていく目を見つめる。
 あなたの幸せだけを望んでいたのに。
 あの時、あなたに出会わなければ。
 堕ちたミリを見たくなかった。
 穢れたミリを知りたくなかった。
 綺麗な女神のままで居て欲しかった。

 だから   一緒に行こう ――




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