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― 本と通路と味方2 ―

2022/05/12
文字数:約1001文字

5【本と通路と味方2】

外に出た。
後ろを振り返ると、トンネルがあった。
ちゃんと整備されているトンネルで扉もシッカリとついていた。

前には田んぼが広がっていた。
ここがどこなのかは分からなかったけれど、地上だという事は分かった。
後ろのトンネルと違って、目の前には整備された道路が見当たらない。
あるのは、田んぼと用水と砂利道だけだった。

私は用水の傍の砂利道を歩くことにした。
水の音を聞きながら、温かな日差しに照らされてテクテクと歩く。
気が付くと後ろに人がいた。
後ろが気になってしまったので、歩を緩めて先に行ってもらうことにした。
その人はさっさと先に歩き去ってしまった。

どれくらい歩いたのか分からない。
砂利道の先は見知らぬ一軒家だった。
家の前には、数人の男女がいる。
「ここって、どこ?」
私と同じように迷ってるみたいだった。

家の傍にまたトンネルの扉のようなものがあった。
男性が一人そこから出てきて、「駅ならここですよ」と案内していた。
皆がそこに入っていくので、私もそこに入ってみた。
中は広い空間だった。
「切符売り場は……駅のホームは……」
男性が説明をしている。
先に入った男女が高い天井を見上げたり、電車のいないホームを眺めたりしていた。

駅名の説明もしていたけれど、その駅名は私の知らない名前だった。
「××駅まで行けば、帰れるね!」
と女の子が言っていた。
その駅名は私も知っていた。
「ね。あなたも同じでしょ?」
もう一人の女の子が、私に顔見知りのように話しかけてきた。
よく見ると、クラスメイトだった。
私は頷きながら、切符売り場で駅名を確認する。
でも、ここがどこなのかやはり分からない。
「オレ、お金ない」
男の子の一人が言った。
私もお金は一つも持っていなかった。
「はい。使って。後でちゃんと返してね」
女の子が財布を取り出して、男の子にお金を渡した。
私は帰れないなと思ってると、私にも同じようにお金を渡そうとしてきた。
「え?」
思わず、相手の顔をまじまじと見つめてしまう。
そこまで親しかった覚えがないのに、いいのだろうか?
「ちゃんと、後から返してよね」

返せないだろうなと思った。
次に会えるか分からない。会えても覚えているか分からない。
受け取るのに迷っていたら「大丈夫よ。返せばいいんだから」とお金を押し付けられた。

駅のホームは相変わらずからっぽで、電車がくる気配はない。
真っ白な駅には私たち以外誰もいない。


本当に駅なのかな。


そう思った辺りで目が覚めた。




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