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― ロッカーの箱 ―

2022/05/12
文字数:約800文字

6【ロッカーの箱】

夢を見た。
そこは工場の中だった。
金色のリングを作っていた。
数人の従業員とたくさんの機械。
私もその中で働いていた。

ふと、辞めようと思った。
辞めて新しい仕事があっさりと決まった。
次の仕事も工場。
その仕事もしばらくして、辞めようか迷った。
コーディネーターが「どうするの?」と聞く。
「考え中」と私は答える。

そんな中で、元の工場から「まだ、あなたの荷物が残っているから取りに来て」と連絡があった。

私はリングの工場に行った。
いつもの従業員がいつもの仕事をやっている。
窓の光が入ってきて、リングがキラキラ輝いていた。
私に気が付いた同僚が、話しかけてくる。
何気ない話の中で「仕事を辞めようと思っている」という事も伝えた。

「ここに、戻ってきたら?」

とても意外な言葉だった。
ああ。そんな選択肢もあるんだと思った。
今の仕事に不満はない。
リングの仕事も不満はなかった。
けれど、辞めてしまった。戻ってもいいのかもしれないと心が揺れた。

仕事に戻った同僚を見ながら、工場を見渡す。
ここで働いてもいいのかもしれないと考える。
そこに、一人の女性がやってきた。いつも親切だった先輩だ。
「あなたのロッカーの荷物、箱にまとめておいたから」
そう言われて、荷物を取に来たことを思い出した。

ロッカーは一つで二人が使っていた。
私と先輩とで使っていたのだ。
私の荷物が残っているという事は、新しい人は来ていないのかもしれないと思った。

ロッカーを開けると、箱が入っていた。大きなミカン箱一つ。靴箱くらいの箱が数個。
私の荷物はミカン箱に入って、ロッカーの大半を占領していた。
靴箱は新しく着た人達が残していったものかもしれないと思った。
「早く持って行ってね」
先輩が箱の脇の小さなスペースから自分の荷物を引っ張り出す。

それを見て、私は新しい仕事をしようと思った。
リングの仕事も今の工場も私の仕事ではない。

もっと別の新しい事をしよう。

そう思った辺りで目が覚めた。





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