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― 忘れられた雨0 ―

2023/09/02
文字数:約409文字
  ✞::小さな話::✞

 あの日、私は死んだ。


 はぁ はぁ はぁ……っ


 走っても走っても、追いかけてくる。
 何から逃げているのかも分からない。

 でも、追いかけてくる。
 どこまでも、どこまでも

 ……ナニカガ 追いかけてくる。


 吸っても吸っても肺に空気が入らない。

 はぁ はぁ はぁ……っ

 呼吸音だけが大きく膨らんで
 やがて、耳鳴りだけに変わった。


 誰かが肩を掴んで、目の前が真っ赤に染まる。
 脳が破裂するような感覚の中で、飛び散った血を見たような気がした。


 気がつくと雨の中で、私は死体を見下ろしていた。

 血に染まった誰かの身体。
 ピクピクと動く小さな痙攣。
 焦点を失い充血した眼球。

 これは、私の身体だったのだろうか。



 私は、あの日、死んだ。

 でも、それがいつだったのか覚えていない。
 覚えているのは、血が雨に混ざる赤い色。


 それ以降、私は待っている。
 私に話しかけてくれる何か。
 人でなくてもいい。追いかけてきた何かでもいい。


 ねぇ。
 一人は寂しい。
 誰か


 だれか。だれか。