文字数:約409文字
✞::小さな話::✞あの日、私は死んだ。
はぁ はぁ はぁ……っ
走っても走っても、追いかけてくる。
何から逃げているのかも分からない。
でも、追いかけてくる。
どこまでも、どこまでも
……ナニカガ 追いかけてくる。
吸っても吸っても肺に空気が入らない。
はぁ はぁ はぁ……っ
呼吸音だけが大きく膨らんで
やがて、耳鳴りだけに変わった。
誰かが肩を掴んで、目の前が真っ赤に染まる。
脳が破裂するような感覚の中で、飛び散った血を見たような気がした。
気がつくと雨の中で、私は死体を見下ろしていた。
血に染まった誰かの身体。
ピクピクと動く小さな痙攣。
焦点を失い充血した眼球。
これは、私の身体だったのだろうか。
私は、あの日、死んだ。
でも、それがいつだったのか覚えていない。
覚えているのは、血が雨に混ざる赤い色。
それ以降、私は待っている。
私に話しかけてくれる何か。
人でなくてもいい。追いかけてきた何かでもいい。
ねぇ。
一人は寂しい。
誰か
だれか。だれか。