5:雑音
文字数:約1375文字
無機質な教室の中。閉ざされた心に― 触れられますか?
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いつもと変わらないざわめき。
そう― あの子が話し掛けるまで、
それは私にとって『雑音』だったのだ。
「うわ~、いい点数。私なんかとは大違い」
不意に後ろから聞こえた声は私に向けられたものらしい。
「?」
「
振り返ればそこにはクラスメートの一人。
えっと?名前が出てこない??
「あ、名前覚えてない?ひどいな~クラスメートなんだから覚えてよ」
「えっと、ゴメン」
「
自分を指差し神谷さんは軽く笑った。
片手にはついさっき返されたテスト用紙。
「ちょうどいいや。答え合わせさせて」
そう言って、私のテスト用紙を引っ手繰る。
ああ……そう言うことね。
ただ、答え合わせをさせてくれる人を捜してただけか。
「ありがと。助かった~」
暫くして私のテスト用紙が帰ってきた。
「じゃね」
そうして、自分の席に帰っていった。
「ねぇ。一緒に帰らない?帰り道途中まで同じでしょ?」
放課後また、あの子の声が聞こえた。
「……いいけど」
それ以外に答えようが無い。
「よかった」
その子は帰り道ずっと何かを話していた。
私はただ時々相槌を打つ。
「あ、じゃね。ここだから」
不意におしゃべりが終わり、手を振る。
「うん。じゃ」
私もそれに返した。
無機質な時間。
無意味な言葉。
何もかもが現実で― 嫌になるくらい。
それからちょくちょくあの子は私に声をかける。
「ねぇ。私の事嫌い?」
ある日の帰り道、唐突にあの子がいった。
「??何?」
「だって、冷夏ってちっとも楽しそうじゃないんだもん」
「楽しくしなきゃダメなの?」
「そうじゃないけど」
少し頬を膨らませてあの子は言う。
「もうちょっと感情を出しても良いと思うよ」
「何それ?」
「だって、最初の頃はもう少し笑ってくれたのに、今は全然じゃない」
笑ってた?誰が?わたしが?
顔が強張るのが自分でわかる。
「気づいてなかったの?冷夏ってば感情表すの下手だしね」
覗き込む瞳は何でもお見通しといわんばかり。
「……。分……た…うな事……」
聞き取れないような小さな声が口から漏れる。
「何?」
あの子が聞き返す。
「……。なんでもない」
「あのさ、言ってよ。私たち友達でしょ?」
呆れたような声が聞こえる。
「わたしといるのが嫌なら構わないで―
勝手に友達面しないでくれる?
気休めで触れられたら迷惑よ」
自分でも驚くほど感情的になってるのがわかる。
抑えた声だけにそれは異様な冷たさを持っていた。
「あ、ごめっ……そーだよね」
ああ、いやだ。傷つけてるのが痛い。
言うつもりなかったのに。言わなきゃ良かったのに。
「あはっ。でもさ、放って置けなくて。
いつも遠くを見てたから、何処見てるのかなって思ってて。
なんか、気になってて。私……何言ってんだろ」
不意に顔を伏せて、あの子は駆け出していった。
らしくない。そんなの分かってる。
いつもなら「なんでもない」で済ませるのにどうして―
次の日、教室の中はいつもの雑音。
「ごめん」
意外にもあの子の方から謝ってきた。
「えっ?」
驚いた顔の私にあの子は言う。
「言ってって言ったの私の方だし、それに嫌な思いさせたでしょ?」
ニッコリと笑う雷那。
気まずそうに私は言葉を紡ぐ。
「ごめん。雷那」
雑音が消えて『言葉』が聞こえた。
「うん。気にしないでこれはもう終わり」
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