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― 雑音 ―

2023/09/03

5:雑音

文字数:約1375文字
 無機質な教室の中。
 閉ざされた心に― 触れられますか?

――――――――――――†――――――――――――

 いつもと変わらないざわめき。
 そう― あの子が話し掛けるまで、
 それは私にとって『雑音』だったのだ。

「うわ~、いい点数。私なんかとは大違い」

 不意に後ろから聞こえた声は私に向けられたものらしい。
「?」
水城みずきさんって頭良いんだ~」
 振り返ればそこにはクラスメートの一人。
 えっと?名前が出てこない??
「あ、名前覚えてない?ひどいな~クラスメートなんだから覚えてよ」
「えっと、ゴメン」
神谷かみや雷那らいなだよ。覚えた?」
 自分を指差し神谷さんは軽く笑った。
 片手にはついさっき返されたテスト用紙。
「ちょうどいいや。答え合わせさせて」
 そう言って、私のテスト用紙を引っ手繰る。
 ああ……そう言うことね。
 ただ、答え合わせをさせてくれる人を捜してただけか。
「ありがと。助かった~」
 暫くして私のテスト用紙が帰ってきた。
「じゃね」
 そうして、自分の席に帰っていった。

「ねぇ。一緒に帰らない?帰り道途中まで同じでしょ?」

 放課後また、あの子の声が聞こえた。
「……いいけど」
 それ以外に答えようが無い。
「よかった」
 その子は帰り道ずっと何かを話していた。
 私はただ時々相槌を打つ。
「あ、じゃね。ここだから」
 不意におしゃべりが終わり、手を振る。
「うん。じゃ」
 私もそれに返した。

 無機質な時間。
 無意味な言葉。
 何もかもが現実で― 嫌になるくらい。



 それからちょくちょくあの子は私に声をかける。
「ねぇ。私の事嫌い?」
 ある日の帰り道、唐突にあの子がいった。
「??何?」
「だって、冷夏ってちっとも楽しそうじゃないんだもん」
「楽しくしなきゃダメなの?」
「そうじゃないけど」
 少し頬を膨らませてあの子は言う。
「もうちょっと感情を出しても良いと思うよ」
「何それ?」
「だって、最初の頃はもう少し笑ってくれたのに、今は全然じゃない」
 笑ってた?誰が?わたしが?
 顔が強張るのが自分でわかる。
「気づいてなかったの?冷夏ってば感情表すの下手だしね」
 覗き込む瞳は何でもお見通しといわんばかり。
「……。分……た…うな事……」
 聞き取れないような小さな声が口から漏れる。
「何?」
 あの子が聞き返す。
「……。なんでもない」
「あのさ、言ってよ。私たち友達でしょ?」
 呆れたような声が聞こえる。

「わたしといるのが嫌なら構わないで―
 勝手に友達面しないでくれる?
 気休めで触れられたら迷惑よ」

 自分でも驚くほど感情的になってるのがわかる。
 抑えた声だけにそれは異様な冷たさを持っていた。
「あ、ごめっ……そーだよね」
 ああ、いやだ。傷つけてるのが痛い。
 言うつもりなかったのに。言わなきゃ良かったのに。
「あはっ。でもさ、放って置けなくて。
 いつも遠くを見てたから、何処見てるのかなって思ってて。
 なんか、気になってて。私……何言ってんだろ」
 不意に顔を伏せて、あの子は駆け出していった。

 らしくない。そんなの分かってる。
 いつもなら「なんでもない」で済ませるのにどうして―

 次の日、教室の中はいつもの雑音。
「ごめん」
 意外にもあの子の方から謝ってきた。
「えっ?」
 驚いた顔の私にあの子は言う。
「言ってって言ったの私の方だし、それに嫌な思いさせたでしょ?」
 ニッコリと笑う雷那。
 気まずそうに私は言葉を紡ぐ。

「ごめん。雷那」

 雑音が消えて『言葉』が聞こえた。

「うん。気にしないでこれはもう終わり」






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