6:終わりの薔薇
文字数:約722文字
はらはらと舞い落ちる花弁。人ならざる者の想いが―響いてきますか?
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崩れかけた遺跡の中。
冷たい風が脇を通り抜けていく。
赤い紅い薔薇の花園が広がっていた。
遺跡の中だとは思えない感覚が走る。
まるで楽園にいるような――
そこにいる一人の女。
白い肌に赤い唇が印象的だった。
「そんなところで何をしている?」
俺はその女に問う。
「さあ?」
さらりと黄金の髪が流れ、蒼い瞳が俺を見つめた。
「あなたは?何しにきたの?」
感情の無い声が女の口から発せられる。
無表情なその顔からは何も感じられない。
「宝玉を求めて来た」
「宝玉?」
聞き返すその言葉もまるでオウムのようにただ返しているだけの様に聞こえる。
「願が叶うという宝玉だ。ここには無いのか?」
「無いわ」
つっと指が俺の首元に伸びる。
俺は後ずさりをしてそれを避けた。
「何だ?」
訝しげに女を見つめ返す。
「欲しいの。久しぶりの人だもの。寂しいの」
妖艶な笑みを浮かべ、酔ったように女は言う。
「ねぇ。あなたも欲しくない?欲しいでしょ?
待ってたのよ。待ちわびたわ。だって、薔薇では代わりにしかならないんですもの」
体がしびれたように動かない。
魅せられた様に瞳は女から離れない。
唇から覗く白い牙。
舞い散る薔薇の花びら。
むせ返るような甘い香り。
頭の中でシグナルが鳴り響く―
赤
紅
朱
赤い唇から、それよりも赤い花びらが舞い落ちた。
「待ってたのよ―」
にこやかに微笑むと女はゆっくりと地へ崩れ落ちる。
手にはいつの間に握り締めたのか銀の剣。
一筋の赤い雫が滴り落ちる。
と同時に薔薇の花が一斉に散って行く。
鮮やかに美しく――
待っていたのは― 終わらせてくれる者か?
俺は無言でその遺跡を後にした。
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