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― 天使の約束 ―

2023/09/03

16:天使の約束

文字数:約417文字
 一つの小箱。
 開きたい― 開けない?

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 手の上には一つの小箱。
 ついさっき見つけた。
 机の奥深くで眠っていた小箱。
 これが何なのか知っている。

 私を解き放つモノ。

 ぎゅっと閉じた瞳の向こうに闇がある。
『どうして躊躇う?』
 悪魔の誘惑のような声に心が揺れた。
『開けば楽園への鍵を手に入れられる』
 甘美な声が私を闇へと導く。
『それが天使との約束だろう』

 約束をした―
 天使と天上で
『もう一度、死にたくなったら小箱を開けて。
 必ず私が迎えに行くから』
 悲しそうに微笑む天使。
 差し出した手にそっと乗せられた小箱。
 六枚羽が大きく羽ばたいた。
 そして、小さく呟いた声が微かに私の耳に届いた。

『できるなら―』

 ぎゅっと握り締めた小箱。
「約束―」
 一度息を吸い、心を静める。
「したの。死なないって」
 イザナイの声はもう、聞こえない。
 窓の外は真っ青ないい天気だった。
 天上の天使が微笑んだ気がした。

『できるなら―死なないで―』




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