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― 純白魔女 ―

2023/09/03

18:純白魔女

文字数:約766文字
 真白き空気と真紅の雫。
 純白ゆえに― 行き着いた先?

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『人は弱いから』
 そう言って、弱々しく笑っていた。
 女神と呼ばれた魔女。

 僕があの人に会ったのは母に連れられてだった。
 どんな病気も治せるといわれた『女神』に会った。
「もう、大丈夫よ」
 額にかざした手を下ろし女神は言った。
 母は喜び僕を抱きしめた。
 そして、『女神』に何度もお礼の言葉を言う。
 僕には何が何だかわからなかった。
 ただ、母が喜ぶので嬉しかった気がする。

 『女神』の元には様々な人が訪れる。
 怪我をした人や病気の人、中には商売繁盛を願う人も。
 やがて、『女神』に憧れ尊敬する人たちが集まって、
 『女神』の周りは小さな集落のようになった。
 僕たち家族もその中に居た。

 僕がもう一度『女神』に会ったのは外を歩いてた時。
 暇を持て余して辺りをうろついていたのだ。
 すすり泣くような声に僕は足を止めた。
 女神が声を殺して泣いていた。
 僕に気づいた女神がハッとしたように振り向いた。
「どうしたの?」
 僕は聞いた。女神は目を軽くこすっている。
「何でも無いの」
「なんでもなくて泣かないよ?」
 見上げると女神の視線とぶつかった。
「見てたの?」
 クスリと照れくさそうに女神は笑った。
「ちょっと嫌な事があってね。でも、別にいいの」
「どうして、いいの?悲しいんでしょ?」
「人は弱いから―。いいのよ」
 それが、どういう意味なのか僕には判らなかった。

 それから後『女神』は『魔女』になった。
 国王が『魔女』として『女神』を捕らえたのだ。
 『仲間』が『女神』を売ったのだとも言われた。
 処刑の日、僕はそれを見に行った。
 そこにいたのは茨でつながれた『女神』。
 剣がその胸を貫き真紅の雫が舞った。
 静かにそれが落ちるのを見てた。

『人は弱いから―』

 それは絶望だったのか、希望だったのか
 僕には判らない。




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