21:星に佇む樹
文字数:約451文字
窓に広がる無限の空間。その向こうまで― 往けますか?
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「還りたい」
それがばばの口癖だった。
「水が溢れ、樹が茂るあの大地へ―」
繰り返し繰り返し、僕に聞かせてくれた。
そのばばは大地に還ることなく死んだ。
僕は大地を知らない。
この箱舟以外の場所を知らない。
僕が生まれる前に人々は大地を捨て、天に逃げてきた。
大地を知ってるものはもう、誰もいない。
それでも託された夢を追って僕達はもう一度、
大地に還る計画を起てた。
だけど大地の穢れは僕たちを寄せ付けなかった。
過去に起きた人々の過ちを、星は許さなかった。
「これが、私達の大地?」
箱舟から見るそれは樹など一本も無く、水さえも一滴もない。
「何処だよ。これは」
呟く声は全て絶望と落胆。
伝え聞く木々も水も無く、あるのはサラサラと舞う砂。
誰もが目を伏せた。
その時僕は見た。
「あれ」
指差した先に、たった一本の樹。
葉も無く、枯れたようにも見えるがそこに佇む姿には威厳があった。
『おかえり』
樹がそう言ってくれた気がした。
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