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― 星に佇む樹 ―

2023/09/03

21:星に佇む樹

文字数:約451文字
 窓に広がる無限の空間。
 その向こうまで― 往けますか?

――――――――――――†――――――――――――
 
「還りたい」
 それがばばの口癖だった。
「水が溢れ、樹が茂るあの大地へ―」
 繰り返し繰り返し、僕に聞かせてくれた。
 そのばばは大地に還ることなく死んだ。

 僕は大地を知らない。
 この箱舟以外の場所を知らない。
 僕が生まれる前に人々は大地を捨て、天に逃げてきた。
 大地を知ってるものはもう、誰もいない。
 それでも託された夢を追って僕達はもう一度、
 大地に還る計画を起てた。

 だけど大地の穢れは僕たちを寄せ付けなかった。
 過去に起きた人々の過ちを、星は許さなかった。
「これが、私達の大地?」
 箱舟から見るそれは樹など一本も無く、水さえも一滴もない。
「何処だよ。これは」
 呟く声は全て絶望と落胆。
 伝え聞く木々も水も無く、あるのはサラサラと舞う砂。
 誰もが目を伏せた。
 その時僕は見た。

「あれ」

 指差した先に、たった一本の樹。
 葉も無く、枯れたようにも見えるがそこに佇む姿には威厳があった。

『おかえり』

 樹がそう言ってくれた気がした。




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