22:人を眺める樹
文字数:651文字
目に見えない痛み。他者の何気ない言葉― 気にしませんか?
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手を伸ばして届きそうな気がした。
緑の茂る大樹の下、私は幹にもたれる。
サワサワとなる木々の音に耳を澄ました。
「また、なにかあった?」
不意にした声に振り向いて、私は笑う。
「何も・・・って言っても信じてくれないか」
「何かあったんだろ?泣いてる」
彼は何もかもを見透かしたような目で、私を見つめる。
「泣いてない」
目をそらして、私は言う。
「じゃあ、傷ついてる」
「……」
「あたりだろ」
「これは、ちょっと転んだだけ」
私は無意識に腕を擦る。
「うそ」
「……」
「何があった?」
ため息を一つついて、私は降参というふうに手を上げる。
「いつもの事だよ。『気に入らない』『邪魔』『居なければいいのに』
そう言われるの、慣れてるのにね」
ニッコリ笑ったつもりだった。
腕がじんじんと痛んだ。
「あはっ。馬鹿みたい。気にしなければいいのに」
泣かない。傷つかない。気にしない。
そう思うのに―
彼が私の腕をそっと擦った。
「頭でそう思っても、心が叫ぶから体に傷ができるんだ。
これは君へのシグナルだよ」
「だって、皆に気に入られるなんて無理だよ」
傷は痛みを増す。
「君は君のままでいいんだ。
君が君を好きならね」
知ってる。傷をつけてるのは私自身。
他者の言葉と共に自分の言葉で傷が深まる。
「大っ嫌い。こんな特異体質」
だけど、一番嫌いなのは私を傷つける私自身だ。
樹はさっきと変わらず風に吹かれてる。
大きな枝を揺らし
「大丈夫」と言ってるようで―
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