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― 人を眺める樹 ―

2023/09/03

22:人を眺める樹

文字数:651文字
 目に見えない痛み。
 他者の何気ない言葉― 気にしませんか?

――――――――――――†―――――――――――― 

 手を伸ばして届きそうな気がした。
 緑の茂る大樹の下、私は幹にもたれる。
 サワサワとなる木々の音に耳を澄ました。

「また、なにかあった?」

 不意にした声に振り向いて、私は笑う。
「何も・・・って言っても信じてくれないか」
「何かあったんだろ?泣いてる」
 彼は何もかもを見透かしたような目で、私を見つめる。
「泣いてない」
 目をそらして、私は言う。
「じゃあ、傷ついてる」
「……」
「あたりだろ」
「これは、ちょっと転んだだけ」
 私は無意識に腕を擦る。
「うそ」
「……」
「何があった?」
 ため息を一つついて、私は降参というふうに手を上げる。
「いつもの事だよ。『気に入らない』『邪魔』『居なければいいのに』
 そう言われるの、慣れてるのにね」
 ニッコリ笑ったつもりだった。
 腕がじんじんと痛んだ。
「あはっ。馬鹿みたい。気にしなければいいのに」
 泣かない。傷つかない。気にしない。
 そう思うのに―
 彼が私の腕をそっと擦った。
「頭でそう思っても、心が叫ぶから体に傷ができるんだ。
 これは君へのシグナルだよ」
「だって、皆に気に入られるなんて無理だよ」
 傷は痛みを増す。

「君は君のままでいいんだ。
 君が君を好きならね」

 知ってる。傷をつけてるのは私自身。
 他者の言葉と共に自分の言葉で傷が深まる。
「大っ嫌い。こんな特異体質」
 だけど、一番嫌いなのは私を傷つける私自身だ。


 樹はさっきと変わらず風に吹かれてる。
 大きな枝を揺らし
「大丈夫」と言ってるようで―




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