26:消えない笑顔
文字数:927文字
いつか見た笑顔。そのままでいては― いけませんか?
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その子は始めから目立っていた。
黒い肌にキラキラ光る青い瞳。
僕達とは違う異邦人は、明るくて活発だった。
クラスで初めて会った時から、気にはなっていた。
だけど―
「なぁ、お前の目。どんな風に見えるんだ?」
思い切って聞いた一言。
「あ、俺も気になってた。その目って俺達と違って青く見えるのか?」
クラスの一人がからかうように聞いた。
「違うよ。皆と同じように……」
「本当か~?俺達と違うようにみえてんじゃねえの?」
面白半分にはやしたてる。
「じゃあ。君たちは黒く見えるの?」
鋭く見据えてその子は返した。
「な、生意気な奴」
それがいじめきっかけだった。
僕はただ、話をしたかっただけ。
それがどうして、こうなってしまったのだろう。
その日からだんだん、笑顔が消えて暗くなっていった。
僕は止める事なんてできなかった。
怖くて、自分の事しか考えられなくて―
やがて、その子は学校に来なくなった。
だけどある日偶然、その子に逢った。
「あっ」
気づいたけどどう言えばいいのか判らなかった。
何となく気まずくて、下を向いた。
「久しぶり」
声を掛けてきたのは向こうだった。
「ひ、久しぶり」
「学校、終わったの?」
「あ、うん。お前は?」
馬鹿な事を聞いたと思った。
彼が学校に来てないのは知っている。
「おつかいの帰り」
「そっか」
何も言う事が見つからなくて二人とも暫く黙った。
「あ、のな」
言い出せなかった事、今なら言えるかも。
「ん?何?」
「ゴメン。あんな風に傷つけるつもりじゃなくて」
「何?何の事??」
目をぱちくりさせて彼は僕を見つめる。
「目の事。アレがきっかけでいじめが始まったから」
「……気にしてないよ」
あっけらかんと彼は言った。
「でも……!」
「何処だって一緒なんだよ。ここでは僕は異端者だから」
そう言って寂しく笑った。
「でも、だからって……いじめられる理由にはならないよ」
彼は驚いた顔をして、それからニッコリと笑った。
「優しいんだね」
「あ、う……」
言ってしまってから、自分で慌てた。何であんな事……
「あ、早く帰らなきゃ。ごめん。じゃあね。ありがとう」
そう言って、彼はかけていった。
後には僕一人。
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