38:星歌う地にて
文字数:約739文字
貴方だけに伝えたい。待っていると― ずっと?
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星達が煌めく夜空。
私は視線を上へとあげた。
星の下には闇。真っ暗で巨大な山の影。
私は頂上に行かなければならない。
疲れた足をほぐし、伸びをする。
欲しい者が其処に居る。
迷いの森を越えて、ここまで来るのは容易じゃなかった。
でも、もう少し、もう少しだから。
胸元のネックレスを握り締めて、私は眠りに着いた。
『嘘』
『リニア、諦めなさい』
『嘘だ。あいつが死んで帰ってくるわけ無い。
生きて帰るって』
『仕方が無いだろう』
『嘘つきーーーーー』
嫌な夢を見た。
あれは夢だ。
悪夢……。
私は進む。
崖を登り、谷を越えて、ただ、ひたすらに進む。
そして、辿り着いた場所には。
何も無かった―
体中の力が抜けた。
欲しかっただけ、ラズリが死んだ証を―
『お止めよ。死者に逢えるなんて、ただの伝説だよ。
危険を冒してまで行く必要は無いよ』
母は止めた。死に行く私を必死で。
ラズリのように帰ってこなくなる事を心配して。
戻ってこなかったラズリ。
人づてに死んだとだけ伝わってきたラズリ。
死者に逢えるなら、死者になったなら逢えるかも知れない。
その為にここに来たのに。
一片の風が音を運ぶ。
ヒュオオオォ
音が鳴る。
私は顔を上げる。
音……。
唄だ。
「海鳥よ。伝えておくれ。
僕は生きていると
星と共に生きていると。
優しく、君に届くよう。
言霊よ。伝えておくれ。
私は生きていると
大地と共に生きていると。
柔らかに、貴方に届くよう。
微風よ。伝えておくれ。
俺は生きていると
貴方と共に生きていると
傷つかないように――」
風が繰り返し繰り返す。
死者たちの想いを乗せて。
たくさんの人達の想いの中にあの人の声があった。
『幸せに生きておくれ』
これで、諦められる――
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