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― 星歌う地にて ―

2023/09/03

38:星歌う地にて

文字数:約739文字
 貴方だけに伝えたい。
 待っていると― ずっと?

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 星達が煌めく夜空。
 私は視線を上へとあげた。
 星の下には闇。真っ暗で巨大な山の影。
 私は頂上に行かなければならない。
 疲れた足をほぐし、伸びをする。
 欲しい者が其処に居る。
 迷いの森を越えて、ここまで来るのは容易じゃなかった。
 でも、もう少し、もう少しだから。
 胸元のネックレスを握り締めて、私は眠りに着いた。

『嘘』
『リニア、諦めなさい』
『嘘だ。あいつが死んで帰ってくるわけ無い。
 生きて帰るって』
『仕方が無いだろう』
『嘘つきーーーーー』

 嫌な夢を見た。
 あれは夢だ。
 悪夢……。
 私は進む。
 崖を登り、谷を越えて、ただ、ひたすらに進む。
 そして、辿り着いた場所には。

 何も無かった―

 体中の力が抜けた。
 欲しかっただけ、ラズリが死んだ証を―
『お止めよ。死者に逢えるなんて、ただの伝説だよ。
 危険を冒してまで行く必要は無いよ』
 母は止めた。死に行く私を必死で。
 ラズリのように帰ってこなくなる事を心配して。
 戻ってこなかったラズリ。
 人づてに死んだとだけ伝わってきたラズリ。
 死者に逢えるなら、死者になったなら逢えるかも知れない。
 その為にここに来たのに。

 一片の風が音を運ぶ。
 ヒュオオオォ
 音が鳴る。
 私は顔を上げる。
 音……。
 唄だ。

「海鳥よ。伝えておくれ。
 僕は生きていると
 星と共に生きていると。
 優しく、君に届くよう。

 言霊よ。伝えておくれ。
 私は生きていると
 大地と共に生きていると。
 柔らかに、貴方に届くよう。

 微風よ。伝えておくれ。
 俺は生きていると
 貴方と共に生きていると
 傷つかないように――」

 風が繰り返し繰り返す。
 死者たちの想いを乗せて。
 たくさんの人達の想いの中にあの人の声があった。

『幸せに生きておくれ』

 これで、諦められる――




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