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― 人を殺せる条件 ―

2022/05/12
文字数:589文字

3【人を殺せる条件】

「人を殺せる条件って知ってる?」
テレビを見ながら彼女が唐突に言い放った。

「は?何?」
何を言っているのか訳が分からず、僕は本から目を上げる。
彼女の視線はテレビを見ている。
ただの独り言かと思ったが、返事がくる。
「人を殺す人間を作るには、どうしたらいいと思う?」
「作りたいの?」
「ううん。そうじゃないけど」
一向に視線はこちらに向かない。
独り言のようでいて、ちゃんと言葉はこちらに向いてくる。
テレビはキラキラの恋愛学園ものドラマの画面だ。
「それ、そのドラマを見ながら話すこと?」
「え?ああ。話は大体わかるから」

ドラマはほとんど見てないようだ。
頭の中だけがどこかへと言っているのだろう。
「で?どう思うの?」
さらっと、元の話へと戻してくる。
「うーん。そんなの考えたこともない」

こちらはすでに本の内容が飛んでしまった。
ペラペラと数ページ戻る。
「相手を人だと思わなければ、人は簡単に人を殺せるんだって」
「ああ。そうだね。仲間意識ってやつだっけ?僕たちにはよく判んないケド」

「あなたも私を殺せる?」
くるっと彼女がこちらを向く。
「君は僕を殺したいの?」


「うん」


それはどちらの意思なのか、釈然としないまま彼女の次の言葉を待つ。
「出来るならね」
そう来るか。

「そうだね。出来るなら、僕も君を殺せると思うよ」

僕らにあるのは契約であって、生殺与奪権はない。
触れることも叶わぬもの同士が話すには無意味な内容だ。




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