文字数:650文字
5【夢のない……】
「眠らないの?」
そう聞かれたから
「眠って楽しい事あるの?」
そう答えた。
相手は頭にクエッションを付けた表情で、もう一度別の質問をした。
「疲れない?」
「どうでもいい。それに、眠らなくても死なないよ」
「死んじゃうよ」
即答するところを見ると、その事件を頭に残しているのだと思った。
「そーだね。そーいう例もあったね」
相手の顔に浮かぶのは呆れ。
それだけでいい。そして、放っておけばいい。
だけど、相手は違った。
心配と困惑の表情を浮かべたまま、じっとそこに立ち尽くしていた。
そのうち、寝室へ向かうだろうと放置したままパソコンへと打ち込みを続ける。
けれど、じっとしたまま10分もそこにいる。
「何?そっちこそ、眠れないの?」
放置できなくなって声をかける。
「怒ってるの?」
今度はこちらがクエッションの中に沈みそうだった。
「別に怒ってなんか…」
「何に怒ってるの?だから、眠らないんでしょ?」
私の声はかき消されて、相手はただ自分の言いたいことを淡々と述べる。
「だったら何?眠ったらいいって言うの?」
「そうじゃなくて……そうじゃ…なくて……」
その次の言葉は用意されていなかったらしい。
「ああ。そっか」
ふと、とても意地悪な感情が沸き上がる。
「一緒に眠って欲しいの?一人は寂しい?」
「ちがっ。そうじゃなくて……もう、いい!!」
顔を真っ赤にさせたまま、部屋へと戻っていった。
その後ろ姿を見送ってから、一人呟く。
「目覚めがないなら、今すぐにでも眠ってあげる」
……なんて言えば、相手は泣いてしまうかもしれない。
あの純粋さは私にはもうない。
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