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6【地獄はどこに……】
死者と生者は交わらない。だから、この世界には『地獄』と『極楽』の概念が存在して、死してもなお生あるがごとく存在できると信じられる。
「バカバカしい」
テレビを消して、少女は呟く。
ポフッとソファーで膝を抱えて、さらにぬいぐるみまで手元に引き寄せる。
その姿は普通の少女と変わりない。
「…バカバカしい」
少女は小さく繰り返した。
その後にボフンッとぬいぐるみが壁に投げつけられる。
ぼんやりとしていた僕の頭にそれがぶつかった。
「うん。何が?」
寝ぼけ眼をこすって、いつもの椅子に座る。
「地獄なんてないのよ!!」
「うん。そうだね」
少女の叫びに、低いテンションで返す。
「判ってない」
「判るように説明して」
テーブルの上のキャンディーに手を伸ばして、一つ舐める。
少女は苛立ってるだけではないようだった。
何とも言えない複雑な顔でため息を一つついて、淡々と話し出す。
「地獄なんて無いのよ。死んだら、人はただの腐った肉になるだけ」
「そうだね」
あまい味が口に広がる。
「なのに、地獄に行けと望むのはおかしな事だわ」
「人間は死後の世界を知らないんだよ。だったら、想像するしかないじゃないか。
僕は人間の想像力、嫌いじゃないけどな」
キョトンと少女がこちらを見る。
「そうだけど……」
「ほらほら、落ち着いて」
少女にキャンディーを一つ渡す。
しぶしぶと言った感じで少女はキャンディーを舐める。
「……甘い」
僕に対しての言葉だろうか?と思ったが、キャンディーに対してだったらしい。
「でしょ」
「あんたも甘い。地獄はないけれど、生き地獄ならあるわ」
少女は口元を少し上げて笑った。
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