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― 地図と名称と迷子 ―

2023/04/13
文字数:781文字

3【地図と名称と迷子】

「ここ、どこ?」
 問いに正確な返答が返ってくる。

「経度35.×××、緯度139.×××」

「いや、それ……わかんない。どっちに行けば、いいの?」
 地図がない事を判っていて、再びリュックに手を突っ込む。

「さぁ?」
 判り切った答えが返ってくる。

 こいつに分かるのは現在地の経度緯度だけ。
 地図があれば経度緯度から場所も分かるけれど、肝心の地図が無い。

「方向だけわかっても、目的地は分からないよ?」
 天を見上げた私にこいつは、尤もな事を言う。

「判ってるわよ。あんたも何か考えてよ。このままじゃ森の中で白骨化よ」
「あはははっ。面白いねそれ。現在地も方向も分かってるのに、目的地がわかんないって」
「笑い事じゃないわよ!!」

「あら、楽しそう」
 後ろから声がした。
「何で?ここにいるの?」
 幻覚を見るほどに疲れているのだろうか?と考えてしまう。
 一番欲しい力を持つ人間がそこにいた。

「私も迷っちゃった。りょーちゃん、現在地は?」
「経度35.×××、緯度139.×××」

 同じ言葉と思ったけれど、最後の桁が少し違った。
 僅かに移動したせいだろう。

「きょーちゃん、ここは森の南西。森の外れから約五キロの場所よ」

 私は頭にざっと地図を描く。
 目的地は森の北東。ここが南西5キロならば、目的地までは約13キロほど

「向こうが目的地」

 迷いなく北東を指さす。

「んじゃ。行きましょうか」
 しょーちゃんが先頭を切る。

「待ってよ!!何でここにいるのか教えてくれないの?」
「だって、私がいないと迷子になるでしょ?」

「そうだね」
 のんきにりょーちゃんが返事をした。


 現在地の経度緯度を正確に計るりょーちゃん。
 経度緯度から現在地を地図名称に変換するしょーちゃん。

 りょーちゃんもしょーちゃんも判るのは現在地だけ。
 そこから目的地まで繋げる力はない。

 だから、方角の分かる私が目的地も覚えておく。



 いつもそうして移動してきた。
 たぶん、これからも。




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