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3【地図と名称と迷子】
「ここ、どこ?」問いに正確な返答が返ってくる。
「経度35.×××、緯度139.×××」
「いや、それ……わかんない。どっちに行けば、いいの?」
地図がない事を判っていて、再びリュックに手を突っ込む。
「さぁ?」
判り切った答えが返ってくる。
こいつに分かるのは現在地の経度緯度だけ。
地図があれば経度緯度から場所も分かるけれど、肝心の地図が無い。
「方向だけわかっても、目的地は分からないよ?」
天を見上げた私にこいつは、尤もな事を言う。
「判ってるわよ。あんたも何か考えてよ。このままじゃ森の中で白骨化よ」
「あはははっ。面白いねそれ。現在地も方向も分かってるのに、目的地がわかんないって」
「笑い事じゃないわよ!!」
「あら、楽しそう」
後ろから声がした。
「何で?ここにいるの?」
幻覚を見るほどに疲れているのだろうか?と考えてしまう。
一番欲しい力を持つ人間がそこにいた。
「私も迷っちゃった。りょーちゃん、現在地は?」
「経度35.×××、緯度139.×××」
同じ言葉と思ったけれど、最後の桁が少し違った。
僅かに移動したせいだろう。
「きょーちゃん、ここは森の南西。森の外れから約五キロの場所よ」
私は頭にざっと地図を描く。
目的地は森の北東。ここが南西5キロならば、目的地までは約13キロほど
「向こうが目的地」
迷いなく北東を指さす。
「んじゃ。行きましょうか」
しょーちゃんが先頭を切る。
「待ってよ!!何でここにいるのか教えてくれないの?」
「だって、私がいないと迷子になるでしょ?」
「そうだね」
のんきにりょーちゃんが返事をした。
現在地の経度緯度を正確に計るりょーちゃん。
経度緯度から現在地を地図名称に変換するしょーちゃん。
りょーちゃんもしょーちゃんも判るのは現在地だけ。
そこから目的地まで繋げる力はない。
だから、方角の分かる私が目的地も覚えておく。
いつもそうして移動してきた。
たぶん、これからも。
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