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― あまいアメ ―

2022/05/12
文字数:810文字

4【あまいアメ】

ポタン ポタン
雨が降ってきた。
女の子が掌で受け止めて、口に含む。

「あまーーい」

満面の笑みで女の子が言った。
「ねぇ。おばーちゃん。むかしは雨に味がなかったって本当?」
女の子が振り返った先におばあちゃんがいる。
にっこりと笑って、おばあちゃんは
「本当よ」と答えた。

「むかしはねぇ……」
昔話が語られる。

むかしは争いが絶えなかった。
そんな中、とある科学者が「雨に毒を混ぜればいい」と考えた。
そして、それが成功して毒の雨が降らされた。
毒の雨が降った土地は生き物どころか草木も生えない。

最初はそれでも良かった。
たくさんの土地に毒の雨が降った。
たくさんの土地が草木も生えず、生き物も育たない土地へと変わった。
やがて、人間が住む場所もなくなった。
それでは困ると、やっと毒の雨を無毒化を考えた。
とある科学者がその為に薬の雨を作った。

次は薬の雨が降るようになった。
毒を無毒化して、土地は生き物や草木が生える様になってきた。
でも、その土地に人は住もうとはしなかった。
一度絶えた命が再び栄えるには時間がかかる。
少ない食糧では人は生きられなかった。
やがて、ある科学者が考えた。

だったら、『栄養の雨』を降らせよう。


その次は栄養の雨が降り出した。
でも、生き物たちはその雨を嫌がった。
べたべたとして身体にまとわりつき、嫌なにおいがするからだった。

そこで、科学者はある改良を加えた。

『良し、これで、誰も嫌がらない』

最後に『あまいアメ』が降り出した。
コロコロと小さなまあるい雨が降ったのだ。
べたべたせず、甘い蜜の匂いがほんのりする。
これには人間の子供たちが喜んで、欲しがった。
子供の喜ぶ姿を見て、大人たちも喜んだ。



『そうして、アメはあまあくなったのよ』


おばあちゃんの話を女の子はニコニコしながら聞いていた。
頬にはたくさんの甘いアメ。

「おばーちゃんも、アメどうぞ」

小さな小さなアメがおばあちゃんの手に渡される。

「ありがとう」

おばあちゃんはそれをそっと口に含んだ。




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