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― 館とロボットと型 ―

2022/05/12
文字数:約1455文字

8【館とロボットと型】

夢を見た。

そこはとても広い建物の中だった。
西洋風の建物の中で、廊下が広くて天井が高い。
壁にも扉にも凝った装飾が施されている。
歩いているうちに、博物館みたいだと思った。
けれど、そこには何も展示されていない。
いくつかの開いた扉の中には、広い部屋が広がっていた。
シャンデリアや暖炉がある。
人だけが居ない。

ふっと、頭の片隅で『逃げなくちゃいけない』と思った。
誰か……何かが来る。
沢山の人が逃げまどって、私も逃げていた。
隠れたところで気を失って、一人になった事を思い出した。
後ろを振り返る。
人の気配はない。
前を見ても、誰もいない。

自然と早歩きになった。
後ろから音が聞こえる。
よく判らないけれど『危険』な音だと思った。
廊下の向こうに何かいた。
小型犬くらいのロボットが天井からこちらを見ていた。
人に似た形でありながら、四足にも変形して人を追ってくる。
走り出していた。

大きな階段を駆け上って立ち尽くした。
人が数人、座り込んでいた。
そして、その前にロボットが居る。
ロボットが女性の顔の皮を剥いでいた。
後ろからもロボットがやってくる。
殺されると思った時、目の前のロボットが話し出した。

『ここでは殺されない。エデンのフロア』

後ろから来ていたロボットが階段の上に来ないまま、引き返していった。
目の前のロボットが続けて話す。

『助かりたければ、【型】に入れ。そうすれば、全てのロボットが機能停止する』

ロボットが部屋の前の壁を指さす。
階段の上には廊下がある。
それほど長くない廊下の突き当りに部屋があった。
扉はない。
部屋から廊下へと光が溢れていて、部屋の中はこちらからは見えない。
ただ、廊下の壁はそれまで見てきた壁とは違った。
ごつごつした岩だった。
天井だけはそれまでの廊下と同じで、平らで細かい模様が施されている。
ごつごつした岩の中に、幾つかの人の彫刻がある。
そして、それに混じるように部屋の前に人形ひとがたの窪みもある。
座っていたり、立っていたり、うずくまっていたり、寝ていたりしているような窪みだ。
問題は場所だった。
それらが天井近くにあるのだ。

「いや。無理でしょ。あんなところ」
誰かが呟いた。
それは無視して、ロボットが続ける。

『このフロアでは、自由に過ごして構わない』

それだけ告げて、ロボットは黙ってしまった。
監視するようにこちらに目を向けているようだけれど、襲ってくる気配はない。

「ここで?食料もないのに?餓死しろって?」
男性がロボットに向けて言った声も、むなしく廊下に響いただけだった。
暫く文句を言い合った後、皆がみんな黙ってしまった。

天井近くの型に入れる気がしない。
かと言って、ここには食料が無い。安全だが安心な場所ではないのだ。
食料を得るには殺人ロボットの中を通過するしかない。

天井近くの型を見上げ、壁に手を当ててみる。
岩だけれども、ツルツルしている。登れる気がしない。
部屋の中に入ってみた。
壁紙が張ってある普通の部屋だけれども、机も椅子もない。
入り口の向こう側が一面ガラスなので、廊下まで光が届く事が分かった。
外には、小道と緑の田園風景が見える。
そして、ロボットたちの姿も見えた。


食料問題はほどなくして、解決した。
週に数度、ロボットたちの指示で食料を取りに行く事が出来る様になったからだ。
ただ、それは『殺されない』だけで『安全』ではない。
『危険』な場所に食料が置いてあって、それを取って来れるかは『運』次第なのだ。

その時も建物が崩れて、目の前の少女が潰されそうになった。
とっさに少女を押しのけていた。


その辺りで目が覚めた。




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