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― 襲撃と撤退 ―

2022/05/12
文字数:約1054文字

16【襲撃と撤退】

夢を見た。
病院のようだと思ったけれど、会社だったのかもしれない。
ワンフロアで、机や衝立など簡易なもので部屋として区切られていた。
廊下と言えるような廊下はない。

そこに何かが襲ってきていた。
生き残っていた人達が訳も分からず逃げだしていて、私もその波に乗っていた。
階段を駆け上って、ある階で、いろいろなもので出入り口をふさいで、『何か』の侵入を防いだ。
これからどうするかの話になったけれど、誰も答えを持っていなかった。

なぜか私は『何か』の正体をちゃんと見て来ようと思った。
ここは今は安全でも、いつまで安全かは分からない。
壁らしきものは薄くて、押せば倒れてしまいそうだった。
唯一マシなのが、天井まで届いていて一応天井でも止めてある事。
それが衝立ではない証拠のようだったが、か細い命綱でしかなかった。

「やめておけ」と他の人が言う中、私はドアの向こうに向かった。
後ろで閉まったドアには再びカギとバリケードが築かれる。
……戻る道はないんだなと思った。
いくつかに仕切られた部屋はガラス窓から全て見渡せた。
廊下はないけれど、壁とガラス窓で部屋が区切られているからだ。
バリケードの向こう側はガラスのない小部屋。
こちらからは様子が全く分からない。
同じように向こうからもこちらは分からない。
とりあえず、一部屋目のドアを開けて向こう側に行く。
そこも散らばった書類や椅子が机の傍にない事を覗けば、変わりはなかった。
階段の前の部屋に来た。
階段の前にもバリケードが築かれている。
けれど、その手前にあるのは、病院を思わせるようなスタッフステーションのような場所だった。
壁は相変わらず薄いが、他の部屋とは違って、小さなカラス窓が付いていて開ける様になっている。
小窓の手前にはカウンターが付いている。

スタッフステーションの部屋を覗くと緑の液体が見えた。
ペタペタとあちこちについていた。
『何か』がここにもいる。

そう思うと怖くなって引き返した。
スタッフステーションとは反対の奥の部屋のドアを開ける。

目を疑った。
何事もなかったように人々が仕事をしている。
「何をしているの?」
私がそう聞くと、平然と彼らは
「何があろうと、仕事をしなくちゃ」
と答えた。
「化け物の事は知らないの?」
「知ってる。でも、仕事が優先だ」

振り返ると、仕事をしているのはこの部屋だけ。
他の部屋にはやはり誰もいない。
私は元のバリケードの向こうに戻る事にした。
「どうだった?」
そう、誰かが聞いてきた。
「何も、なかった」
「だから、無駄だって言ったんだ」
誰かがそう淡々と答えた。

その辺りで目が覚めた。




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