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― 妊夫と子捨て ―

2022/05/12
文字数:約1358文字

21【妊夫と子捨て】

夢を見た。
建物内の細長い通路を歩いていた。
作業服の人達が行きかっている。
天井には蛍光灯。私も作業服を着ていた。
私は自分がなぜここにいるのか分からなかった。

行き交う人をしばらく呆然と見ている
と「うるさい。望んでそうなったんだろ!!」という怒鳴り声が聞こえた。
振り返ると、二人のお腹の膨らんでいる男性が上司らしい男性に何かを訴えていた。
上司の男性は怒りながら、二人を置いて行ってしまった。
「大丈夫ですか?」
思わず二人の男性に声をかけていた。彼らが妊夫なのはそのお腹から判った。
「大丈夫。なんでもないよ」
とそっけない返事を聞いても、なぜだか彼らから話を聞きたくて仕方がない。
「お腹すきましたね。食堂に行くんですよね。ご一緒します」
私はその二人に着いて食堂に行く事にした。
食堂もなんだか薄暗く、食事と言えば、パンとお茶と牛乳しかなかった。
お盆をとって、棚に向かいパンをとってから飲み物を選ぶ。
そんな手順だった。
棚の中にはアン○ンマンのキャラクターのパンが詰まっていた。
私は緑のメロン○ンナちゃんを選んだ。
下の棚にはお盆よりも大きな食パンが入っていた。
大きさは大きいが、厚さが薄い。私はそれも引っ張り出してみた。
白いと思ったパンは中央に何かのキャラクターが描かれていた。
それが何なのかは分からないまま、パンを四つ折りにして皿に乗せた。
先に座っていた二人の男性の元へと行く。

彼らはこちらをちらりと見たまま、二人で話し合っている。
「身体、大丈夫ですか?妊夫さんですよね」
「ああ。そうだよ……。
けど、妊婦ではないから、彼女たちのような権利は俺達には無い」
「彼女たちが100年かけて勝ち取ってきた権利を、俺たちはまた一から勝ち取らないといけない」
話を聞くと、『妊夫は好きで妊娠したのだから、仕事を辞めるかやるかの二択しかない』と上司に突き放されたのだとか。
妊婦の権利が認められて、仕事と妊娠の二者択一でなくなった社会で、『妊夫』にはまだ妊婦と同じ権利はない。
妊婦とは違って男性の身体を意図的に妊娠させるのだから、同じ男性からも権利は要らないと言われ共感は得られない。
女性からは男性が妊娠するなんての偏見と批判の中で、権利を勝ち取るのは容易ではない。

男性が妊娠する技術にそんな問題点があったことに驚いた。

彼らと分かれて建物を出ると、空はどんより曇っていた。
建物の外は複雑な路地で、空と同じく曇った空気をまとっていた。
私はそこを目的もなく歩いた。

やがて、少女の妊婦に会った。
ぽつぽつと降り出した雨にぬれていたので、持っていた傘を差しだす。
「身体を濡らしたら、子供にも悪いよ」
彼女はぽかんとした顔で私を見た。
「子供?どこ?」
「そのお腹、子供だよね?」
私は彼女に聞いた。
「何それ?子供は親が捨てて行くんだよ」
その言葉に、ここが子捨てエリアと呼ばれるところなのだと思い当たった。

明日の生存は約束されないエリアで、日々生きるのがやっと。
性教育なんてものは一つもなく、そもそも子供を産める年まで生きることが奇跡と言われている場所。
親に見捨てられた子供たちの住む場所。
そんな場所で育った子供は『妊娠しない』という噂まである。
その噂を信じた輩に妊娠させられてしまう女児は後を絶たないとも聞く。


少女が私に何かを言った。


と思ったところで目が覚めた。




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